第46話 兄弟対決の行方。その5
ぐぅ~。
「……お腹すきません?」
「おい、光は相変わらず緊張感無いな……」
「そうですね。でも、僕もお腹はすきましたよ」
「ではそろそろ私達も行きましょうか。中庭から『試作室』が見えるらしいですよ」
剛士さん、いつの間にそんな情報を?
まぁ……それは良いとして、兄さんと由樹さんが気になりますし、素直に従いましょうか。
「おぉ~!本当だ、しっかり見えますよ」
……光は一番に中庭へ出ると、兄さん達を発見してはしゃいでいた。
「光くん、あまり大声を出しては行けませんよ。しっかり声が聞こえてしまいますからね」
剛士さんは苦笑いしてちゅういしていたけど、こうして対決している姿を見ていると、光が興奮するのもわかる。
双方とも真剣に調理をしていて、審査員3人は調理を見つつ何やら話している。
こんな緊張感たっぷりな所で調理するなんて、考えただけで恐ろしいよ……。
ピピピピピ……。
時間終了を知らせる音が、『試作室』に鳴り響いた。
「時間だ。双方とも、そこまで」
永瀬の父親が終了の合図をした。
……これでやっと対決が終わるんだな。
隼斗を見ると、かなり自信があるのだろう……どや顔で俺を見ていた。
「蓮斗さん、お疲れ様でした。あとは、3人の審査員に料理をお出しするだけですね」
「あぁ、そうだ。由樹もお疲れ様。これが終わったら、何処かに行こうか」
店は平日ならアイツ等に任せても、2~3日くらいは平気だろ。
「良いんですか?」
「あぁ、それくらいしても許してくれるだろ」
もし、アイツ等が許可しなかったとしても実行してやるけどな。
「それでは、審査を始める。まずは、蓮斗君から」
「はい」
俺と由樹はトレーにのせた料理を、各審査員のテーブルに置いた。
審査員達の反応が気になるが、問題は好みの味かどうかだよな……。
「蓮斗、料理の説明をしてくれ」
祖父は料理を一通り見た後、俺に話し掛けてきた。
「はい。俺達は全部で4品にしました。プレーンオムレツ、きのこの温かいサラダ、ジュリアンスープ、フルーツロールケーキです。『おもてなし料理』という課題でしたが、『Coffee shop in a quiet forest.』のランチメニューとしてお客様にも提供できるものを考え、このメニューになりました」
こういう説明をしたことがないが、ちゃんと伝わっただろうか……。
きのこの温かいサラダには、ビネグレットソースがかけられている。
このサラダと一緒にプレーンオムレツを食べると、また違った味わいが楽しめるようになっている。
1度で2度美味しいという訳だ。
ジュリアンスープは千切り野菜のスープで、コンソメ味。
デザートのフルーツロールケーキは、ブルーベリー、ラズベリー、バナナ、イチゴが入っていて、ケーキよりフルーツを食べている感覚になるだろう。
これが皆で考えたメニューだが……。
「なるほど。では、いただくとしましょうか」
「「いただきます」」
永瀬の父親の号令で、審査員が俺達の料理を食べ始めた。
「蓮斗君、由樹さん、ごちそうさまでした」
「蓮斗、旨かったぞ」
「俺は、お店に伺いたくなりましたよ」
「「ありがとうございます!」」
良かった……。
皆さん無言で食べていたから心配だったけど、完食してくれて、こんなに良い言葉まで聞けて安心した……。
でも、隼斗さんと永瀬さんの料理はこれからなんだよね。
早くこの対決が終わらないかな。
判定を待つまでの緊張が凄すぎて倒れそうだよ……。
「さて、次は隼斗の番だな」
「はい」
俺と由奈は、審査員の前に三角形のお皿にのせた料理を出した。
「ほぉ……考えたな。トレーにのせられる分だけと言ったが、トレーにのせろとは言っていない。
だから、それより小さいサイズの白い皿に乗せてきたんだな」
フッ……。
兄さんまで驚いてるな。
ジイサンの店では、こんな技は思い付かないだろ?
「隼斗、料理の説明を……」
「はい」
俺は師匠に返事をしつつ、兄さんを見てニッコリと微笑んだ。
兄さんもつられて俺に微笑み返した。
フッ……わかってないな。
余裕の微笑みってやつだよ……。
「俺達は、3品です。オペラ、クープ・ド・フレーズ、白ワインの炭酸水割りです。お客様には優雅な気分を味わってもらおうと思い、このメニューにしました」
「ほぉ、白ワインの炭酸割りか……」
白ワインの炭酸割りは、白ワインと炭酸を1対1で割ったもの。
オペラは、チョコを厳選して使用した。
クープ・ド・フレーズは、ふわっと口溶けのよいイチゴのムースに、シャリシャリと冷たいイチゴのグラニテをのせた。
イチゴのムースにはイチゴのリキュール、イチゴのグラニテにはシャンパンが入っている。
大人のデザートだ。
(※参考資料:本になった料理学校)
ジイサンは、俺の出した飲み物に興味津々だな。
家で時々飲んでいたが、こんなテイストにはした事がない筈だ。
師匠はチョコが好きで、その弟はイチゴが好きだと聞いた。
全て俺の計算された料理。
そして、兄さん達の平凡な料理に対して、俺達の方が華やかさがある。
誰が見ても、勝ちは見えているだろうな……。
「では、いただくとしましょうか」
「そうですね」
「「いただきます」」
審査員3人が、俺の料理を食べ始めた。
「……旨い。初めて味わう感覚だな」
フッ……。
そうだろう、俺はその反応が出る事を計算して作ったんだからな。
「ちゃんと出来てるじゃないか。チョコの配合も俺好みだ。ブランクがあった筈だが、腕を上げたな」
師匠の好みは調べてあった。
ビターな味と香り滑らかさ……どれも最適にしたからな。
「……ふぅん、なるほど。そう来ましたか」
師匠の弟は、楽しみながら俺の料理を食べていた。
好感触の様だ。
審査員それぞれが、俺の料理を食べて満足している。
これで俺の勝利は決まったな。
兄さん……そろそろ覚悟を決めてくださいね?
「……これは迷うな」
ジイサン……いや、お祖父様、迷うことなんてありませんよね?勝負は決まっているのだから。
「……俺は決まった」
師匠は溜め息を吐くと、俺を1度だけ見て弟に何か合図した。
「俺は、結果を出す前に……聞きたい事があります。蓮斗君、隼斗君、この料理を作り終えた気持ちをそれぞれ話してもらえますか?」
作り終えた気持ちだと?
何故……そんな事を聞く必要があるんだ?
さっさと結果だけ言えばいいのに、何を考えているんだよ……。
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