第45話 兄弟対決の行方。その4

「蓮斗さん!」


開始時間になっている筈なのに、蓮斗さんが控え室に慌てて駆け込んできた。


皆、何事が起こったんだ!?と、蓮斗さんからの言葉を待っていた。


「……ルールが発表された。それで、助手が1人必要なんだが……」


助手を?

それなら、私が……。

でも、皆も蓮斗さんの手伝いがしたいよね……。



「……それで、蓮斗くんは誰を選んだのですか?」


剛士さんは、蓮斗さんに冷静に質問している。

そうよね、大事な対決だし……蓮斗さんの中で誰を選ぶか決まっているのかもしれない。


「まだ……決めていないんです。皆から意見を聞いてからにしようと思ったので。この中で、審査員3人に『おもてなし料理』を作りたいと思う人はいますか?」


『おもてなし料理?』それが今回の課題なのね。


用意された食材を使って、お客様に1200円で提供できるセットを作る……。

すごくやりがいがありそう。



「俺は……応援にします。服飾やデザインなら得意だけど……料理は出せるレベルじゃないし」


光はアハハと笑い、ここで大人しくしていると言った。


「私もここでお待ちしていますよ。珈琲なら自信を持って出せますけどね」


剛士さんは、若い人に任せてみたいし?とオチャメな笑顔を見せていた。


……長年キッチンにいた剛士さんの腕なら間違いないが、あの目は何か考えがありそうな感じだな……。



「俺も、ここでオーナーの帰りを待っていますよ。まぁ、俺の腕なら助手は完璧かも知れないですけどね~」


陽毅は意味ありげに笑い、適任は他にいると言っていた。


「僕も、ここで応援しています。遠出をしたので疲れましたし、ゆっくり休ませてください」


琉斗はらしくない事を言ってきた。


揃いも揃って……俺の申し出をアッサリ断るなんてな。

全く、何が言いたいか分かりやすいな……。



「由樹、こうなったらお前にしか頼めない。俺の助手をしてもらえないか?」


皆から返答をもらい終えた蓮斗さんが、私を見てそう言ってきた。

でも……私じゃ足手まといになりそうなのに。


「私で……良いんですか?」


本当は私から申し出たかった。

でも……皆の方が腕も技術もある。

だから黙って皆の話を聞いていたのに……。


まさか、一番経験の浅い私を指名してくれるなんて思わなくて……そう言ってもらえて涙が出そうなくらい嬉しい。


「由樹じゃないとダメなんだ」


この言葉をもらえて、嬉しすぎて涙腺が崩壊してしまった……。



「あ~ぁ、蓮斗さんが由樹ちゃんを泣かせた~!」


「蓮斗くんは奥手なのに、こういう時はちゃんと言えるんですね」


「オーナー、それプロポーズみたいです」


「本当ですね、兄さん……僕たちの前で見せつけないで下さいよ?」


……おいおい、お前達がこうなるように仕組んだんだろ?


まぁ……確かにプロポーズみたいな言葉だったが、真剣に頼まないと由樹に伝わらないと思ったからな……。



「……由樹、返事は?」


「ありがとうございます。蓮斗さんの助手、頑張ります」


「頼むぞ、頼りにしてるからな」


「はいっ!」


由樹は涙を流しながら、笑顔で答えてくれた。



……由樹、そんなに可愛い顔を見せるなよ。

皆がお前に惚れたらどうするんだ……?


まぁ、そうなったら全力で阻止するけどな。


俺は由樹を引き寄せると、『泣き止むまでな?』と優しく抱きしめた。



「兄さんも由樹さんも、頑張ってきて下さい」


「由樹ちゃん、応援してるね」


「由樹、緊張したら……光のアホ面思い出せよ」


「蓮斗くん、由樹さん、審査員といっても相手はお客様です。ですから、いつも通りでお願いしますね」


おい、俺に対しての応援が少なくないか……?

……仕方無い、可愛い由樹に免じて今日だけは許してやるよ。


「じゃ、行ってくるな」


「蓮斗さんの足手まといにならないよう、頑張ってきますね!」



「「いってらっしゃい」」


よし、頑張ってくるか。

俺と由樹は皆に見送られ、『試作室』へと向かった。



……今は9時25分。

俺は由奈と試作室へ戻った。

俺は考えていた『おもてなし料理』のメニューを紙に書き、由奈は食材を見ていた。


兄さんは、助手をあのお人好しの女にしたのか。

俺には、あの女のどこが良いのか全くわからない。

ただ若いだけで、色気の欠片も無いじゃないか……。


それに比べて、由奈は……パティシエールの腕も才能もある。

助手選びの時点で、既に兄さんの負けが決まったようなものだな……。



「由奈、俺はこれを作ることにした。これなら間違いなく勝てるだろう」


由奈に俺が考えたメニューを見せた。

そして、由奈はメニューが書かれた紙を受け取ると、何か考えていた。


「……これで勝負するんですか?」


「そうだ」


少し不安そうな顔をしているが、俺と由奈の腕なら完璧にできるだろ。


「わかりました」


「それでは、始めるぞ」


兄さん、降参するなら今のうちですよ?



「……由樹、緊張することはない。いつも通りにやってくれれば良いから。俺達が出すのは、来店してくださったお客様だからな」


「はい」


俺達は控え室で考えたメニューを作っている。

勿論、皆で考えたものだ。


この部屋に来たのは、9時20分。

隼斗は永瀬を助手にしたようで、何やら器具を取り出して調理を始めていた。


「果物と野菜、調味料に小麦粉……肉類は無いんですね」


「そうだ。だから、このメニューにしたんだ。さてと、時間も無いし手分けして作るぞ」


「はい!」



……それから数時間が経ち、提供時間の12時まで残り30分になっていた。

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