第31話 森の喫茶店、存続危機!?その1
「そんなに知りたいですか?」
フッ……と鼻で笑い、俺を馬鹿にしている態度……。
昔は明るくて優しいヤツだったのに、こんなに根が腐った人間になってしまったのか。
「あぁ、知りたいね。お前だって、聞いてもらいたいんだろう?」
「ハハッ、良いですね……その表情。私は貴方のその顔を見る度、嬉しくてたまりませんよ」
コイツ……。
これ程まで憎悪剥き出しにして、俺に向かってくるとは……。
あの頃のお前は、もう帰ってこないのか……?
「
お願いだから、何もせずに……このまま帰ってくれ!
「安心して下さい、この苦しみももう少しで終わりますよ。何故なら、あの店は私のモノになるのですから。せいぜいこの旅行を楽しんでください。では、またお会いしましょう……兄さん」
何!?
どういう事だ……?
隼斗は俺が呼び止めている声を無視し、部屋から去っていってしまった。
***
「由樹さん、話と言うのは……」
「はい」
「昔話を聞いてもらえますか?」
昔話を?突然……どうしたんだろう。
琉斗さんがお気に入りの童話でも聞かせたかったのかな?
でも、いつもと様子が違う気がする。
とても深刻そうな雰囲気……。
「……わかりました」
私は琉斗さん達の側に寄り、乾いた石に座ると……琉斗さんの話に耳を傾けた。
今から20年以上前の話……。
とある町に、3人の兄弟がいました。
とても仲が良くて、元気が良い男の子達でした。
共働きだった両親は、子供達を祖父の家に預けていた。
祖父は特に2番目の孫を、それは可愛がっていて……溺愛っぷりは、両親が呆れるほどでした。
いつしか、祖父が経営する店を孫達が手伝い、少しずつ仕事も覚えていきました。
こうしてこの兄弟達は、3人で祖父の店を継ぐという夢を持ちました。
しかし、一番上の兄が成人すると……修行に出ると店を出て他の土地へ行ってしまったのです。
残された弟2人は、兄の帰りを待ちました。
だが、5年経っても戻ってこない兄に、2番目の弟が苛立ちはじめました。
そして、7年後……兄が修行から帰ってくると、2番目の弟が兄とは別の道を歩くと宣言し、家を出てしまい、それから会うこともなくなりました。
2番目の弟を心配した兄は、行方を探しました。
すると……他の店で修行しつつ、苦労して料理の道を歩いている事を目にし、安堵したのです。
こうして2人の兄弟は、2番目の弟がいつか戻ってくると信じ、協力しあって頑張って行こうと決心したのでした。
何もかも、これで上手くいく……そう思っていたのですが……。
祖父が体力的に衰えを感じ、誰かに店を継いでもらおうと言い出したのです。
2番目の弟が戻るまで頑張って欲しいと、祖父に頼みましたが……『もうゆっくりさせてくれ』と言うばかり。
渋々、祖父の願いを受け入れるしかなかった2人の兄弟は、兄をオーナーとして喫茶店を営む事にしたのです。
そして、喫茶店がなんとか軌道に乗り始めた頃……。
祖父の店を兄が継いだと、2番目の弟が知りました。
祖父のお気に入りであった自分が、継ぐと思っていたのに……と嘆き悲しみました。
そして、それが怒りに変わり……兄に対して恨みを持つようになっていったのです。
店にならず者を行かせて嫌がらせをしたり、評判を落とすような行為までもしていました。
兄は、何度もこんな事は止めて、店に戻るように説得を試みましたが……2番目の弟は聞く耳を持ちませんでした。
こうして、2番目の弟は……目標を失った事で料理の道を諦めていまい、堕落し、荒れた生活を送るようになってしまいました。
それからは、十数年……2番目の弟とは会っていません。
どこでどう生活しているのか、元気でいるのか……。
兄や末の弟は、今でもずっと気にかけているのです……。
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