第27話 社員旅行は甘い誘惑の香り。その1

5月の大型連休が近付いていた、ある休日の朝……。

「何?温泉旅行だと!?」


リビングに、蓮斗さんの大声が響き渡っていた。


「え~!ダメですか?」


「僕は良いと思いますよ」


驚いた私は、部屋を飛び出した。


そして、リビングに来てみると……光さんと琉斗さん、蓮斗さんの3人でリビングのテーブルを囲んで何やら話し込んでいました。


「大型連休明けだから、混んでないと思うし……。行くなら、早めに予約取りましょうよ!」


光さんが、イスから立ち上がって蓮斗さんを説得しているみたい。



「おはようございます」


キッチンに向かいつつ……会話の邪魔をしないように、リビングの3人に挨拶した。


「おはよう」


「由樹ちゃん、おはよう~!」

「由樹さん、おはようございます」



あれ?キッチンに何も残っていない……。

まだ朝食取ってないのかな?

と言うことは、朝からずっと話し込んでたの?

きっとまだ終わらないだろうし、私がパッと簡単に作ってしまおうかな。


「由樹、永瀬を起こしてきてくれるか?30分後、リビングに来るように伝えてくれ。その頃には、剛士さんと陽毅も来るから」

「わかりました」


……休みなのに二人がわざわざ来るなんて、何かあったのかな?

とりあえず言われた通り永瀬さんを起こして、パッと朝食を作らないと……。


「おはようございます。皆さんお揃いですね」

「おはようございます。オーナー、決まりましたか?」


「……いや、まだだ。休みの所、朝から集まってもらって申し訳無いです」


剛士さんと陽毅さんが、揃って玄関から入ってきた。

決まりましたか……って、何をかな?

さっき話していた温泉旅行が関係するのかな?



「蓮斗さん、今から何かするんですか?」


なかなか集まった理由を言ってくれないので、永瀬さんがしびれを切らして質問してしまった。


「あぁ、由樹と永瀬には言ってなかったか。連休明けに、一泊二日の社員旅行をと思っているんだが……場所がな決まらないんだよ」


社員旅行?

去年は無かった気がしますけど……。

急に何故でしょうか?


蓮斗さんに聞いたら、3年に1回くらいのペースで旅行に行っているらしいです。

それで、今年がその旅行に行く年で……今その旅行先を悩んでいると。


「やっぱりさ、温泉だよね?観光しつつ、宿に泊まるんだよ~。そこには、いいお湯があるって聞いたんだ」


光さんがガイドブックを広げて、その場所を説明していた。


「日頃の疲れをとるのには、景色も良いし、ゆっくりできそうですね」

「景色なら、この近辺でも変わらないだろ?」


確かに、この町は自然が溢れていますもんね。

でも、それとはまた違うのでは……?


温泉かぁ~、私も行ってみたいな。

美肌の湯とか、美人の湯とか……あったら良いな。


「私は、光くんの意見に賛成です。ここからですと、そんなに遠くはありませんし……料理も美味しそうな感じがしますしね」

「うん、俺も賛成です。久しぶりに温泉に入りたいし、料理を堪能してくるなら……良さそうな宿ですし」


剛士さんも陽毅さんも賛成みたい。

そうよね、せっかく泊まるなら料理も大事よね。


でも、お値段が……高くありませんか?

いくらこの喫茶店が繁盛しているからって、1泊朝夕付きで3万円の宿って……恐縮しちゃいますよ。

7人だし……他にも経費がかかりそうな気がします。


「……あの、お話し中にすみません。新聞に混じってこんな郵便が来ていましたけど」


永瀬さんが、テーブルの上に1通の白い封筒を置いた。

差出人は無し……表書きには、宛先にこの喫茶店の名前が書かれていただけでした。



「誰からでしょうね?とりあえず、僕が中を確認してみましょうか」


琉斗さんが近くの引き出しからペーパーナイフを取り出し、封筒を綺麗に開けた。


「温泉宿『華龍館』のパンフレットと7名分の割引券が入っていましたよ。凄いタイミングですね」

「連休前だから、沢山のお客様を呼び込む為じゃないですか?」


光さんは、送られてきたパンフレットを見て候補の場所と比較し始めていた。


まだ場所が決まらないだろうな……。

私は時間がかかると思い、さっき作った朝食を温め直して、永瀬さんと一緒にダイニングテーブルとカウンターテーブルへ並べ、皆に声をかけた。


「あの、朝食にしませんか?お腹が減っていては考えも纏まらないだろうし」

「やった~!由樹ちゃん、由奈さん、ありがとう!」


光さんは、私の声を聞いた途端……パンフレットを投げ出し、あっという間に席についた。

かなりお腹が減っていたみたいですね……。


「剛士さんと陽毅さんの分もありますから、どうぞ」


私は、皆にダイニングテーブルの方にと案内し……カウンターテーブルの方へは私と蓮斗さんが座った。


「ありがとうございます。お言葉に甘えさせてもらいます」


「由樹、ありがとう。由奈、そこに座れよ」

「はい、ありがとうございます」


この2ヶ月くらいで、陽毅さんと永瀬さんはすっかり仲良くなったみたいで、休憩時間や仕事上がりによく話しているみたい。

陽毅さんが、永瀬さんからデザートのレシピを色々と教えてもらっているから……仕事メインの話かもしれないけど。


今朝の簡単メニューは、ソテーした鶏肉にゴマソース添えと温泉卵のせ彩りサラダとトースト、珈琲です。

簡単すぎですけど、美味しいです。



「兄さん、それで……どうしますか?送られてきたパンフレットの内容もなかなか良さそうですよ」


琉斗さんが蓮斗さんの方に来て、その温泉宿のパンフレットを手渡した。



「そうだな……。皆はどうだ?ほら、由樹も見てみろ」

「はい、ありがとうございます」


私は蓮斗さんからパンフレットを受け取り、温泉宿の内容を見てみた。

場所はちょっと離れているけど、温泉も料理も雰囲気も良さそうな感じ。

それに、女性専用のスパとか……興味ある。


「どうだ?」

「周囲には観光スポットは無いようですが、癒されそうな施設もあるし、良い感じだと思います」


蓮斗さんは、『そうか』と言い……再びパンフレットをしっかり見ていた。


「蓮斗くん、何か気になる事でもあるのですか?パンフレットに穴が開きそうなくらい、ずっと見ていますけど」


蓮斗さんがずっとパンフレットを見ていたから、剛士さんが気になったみたい。

何か、行ってみたい施設でもあったのかな……?


「あぁ……いえ、何でもありません。ここに決めましょうか。琉斗、予約しておいてくれ」

「うん、任せて」


琉斗さんは蓮斗さんからパンフレットを受け取ると

、早速電話して宿に泊まる手配をしていた。


「これで決まりですね。私、皆さんに珈琲いれますね」

「あぁ、ありがとう」


「由樹ちゃん、俺も手伝うよ~」

「私も手伝います!」



私は、皆のカップに珈琲を注ぎ……光さんと永瀬さんは、食器を洗って片付けてくれた。

蓮斗さんは、まだ考え込んでいるみたいだけど、どうしちゃったのかな?


「当日、俺の車で行きますか?ちょうど7人乗れますし」

「良いのか?無理なら、2台で行くことも考えていたんだが」


陽毅さんが、自分の車を出すと提案してくれた。

途中、運転を交代して行けば問題ないって。


「よし!移動の問題も解消したし、幸先良いですね~。後は、当日を待つのみ。楽しみだなぁ~」


まだ1ヶ月は先なのに、光さんが今から大はしゃぎしています。


「光、旅行前日までは仕事ですからね?」

「あ……」


琉斗さんの言う通り、連休で大忙しですね。

それが終わらないと……旅行気分にもなれません。


「永瀬さん、旅行楽しみましょうね」

「はい!」


実は私、社員旅行は初めてだから凄く楽しみです。

前にいた職場は、そういうのが無かったから……。

でも、その代わり忘年会はあったけど。


あっ、蓮斗さんとの初めてのお泊まり旅行だ……。

そう考えたら、急にドキドキしてきた。

どうしよう……どんなのを着ていこう。

光さんじゃないけど、私も受かれつつ……ドキドキわくわくの旅行になりそうな予感です。

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