第19話 甘い香りと苦味は、恋の味?その4

ここに来た時点で、怪しむべきだったのかもしれないけど……こんな豪華なホテルに来ちゃったから圧倒されっぱなしで、そんな事を考える余裕すら無かったもん……。


「……由樹、どうした?」


「あの……蓮斗さん、今からどこに行くんですか?」


由樹が、俺を疑わしい目でじっと見ている。

やっぱりアイツが余計な事を言ったんだな……。

はぁ……。

まぁ、大体は想像つくけどな。


「由樹、アイツに何を言われたかは知らないが、俺を信じて一緒に来て欲しい。嫌なら、ここで帰って良いぞ」


さて、由樹……どうする?

俺はお前に選択権を与えた。

これで、由樹が俺を拒否したとしても恨みはしない。

ただ……それはそれで、俺達の間に何も無かったんだと思うと寂しいけどな。


……どうしよう。

蓮斗さんを信じていない訳じゃ無いけど、でも……悩んでしまう。

これが恋人同士だったら、全く悩んだりしないのに……。

でも、蓮斗さんは私が嫌がるような事をする人じゃ無いと思うし……。


「……由樹、そんなに悩むなら帰るか?」


「えっ?」


「俺がここまで無理矢理付き合わせたしな、悪かった……」


無理矢理だなんて……そんな事は無い。

蓮斗さんと来れたこと、嬉しかったし……。

そうね、蓮斗さんは私の事を思ってくれている。

きっと……大丈夫。


「蓮斗さん、私……一緒に行きます。だから、まだ帰らなくて良いですか?」

「そうか」


私がそう言うと、蓮斗さんはすごく嬉しそうな顔で微笑んでくれた。

それを見て、この決断は間違っていないんだと確信してしまった。


だって、その笑顔で私の心がキュンってしちゃったんだもん……。



「ここだ」

「……あっ、はい」


私達、何処に来たか分かりますか?

私……かなり動揺してます。


「良い景色だろ?」

「……そうですね」


ここは、ホテルの最上階のとある一室。

まさか……本当にオーナーの言う通りに。

蓮斗さんは、他の男性と違うと思っていたのに、こんな結果になるなんて……。


あ、決して蓮斗さんとこうなるのが嫌とかじゃなくて、こう……前置きというか……アピールとか……とにかく、今はダメというか……。

あぁ……私、何を言ってるんだろ。


「……ずいぶん広い部屋なんですね」

「そうだな。ちょっとした人数で会議もできるらしいぞ」


え……。

じゃ、ここってスイートルームクラスなの!?

そんな場所に来れるなんて、一生に何度もあるものじゃないわよね。

よく見たらテレビで見たことあるフルーツ盛りとか、高級そうなワインとか置いてあるじゃない!

はぁ……何て素敵なんだろう。


「あの……蓮斗さん、ここで何かがあるんですか?」


そうよ、この部屋にうっとりしている場合じゃ無いわ!しっかり確認しなさい私!


「由樹……さっきから、落ち着かない雰囲気だな。もしかして、俺が由樹を部屋に連れ込むとか?もっと詳しく言えば、俺が由樹とベッドインしようと企んでる……とか思ってるんだろ?」


「え、えっと……その」


うわぁ……バレてる!

私ってそんなに挙動不審だったのかな!?


「フッ……図星か」


「は……い」


ごめんなさい……。

だって、オーナーが絶対そうだ!みたいな事言ってきたから。


「それで……それなのに、何故俺について来た?その通りになるかも知れないんだぞ」

「……はい、そうですよね」


信じてついて来いとは言われたけど、私は蓮斗さんを疑っていたって事だし。

でもこの状況、間違いなく……だよね。


本当は、オーナーから話しを聞いた時……逃げてしまおうかとも思った。

だって、そうなるって言う事は……今までの関係じゃ無くなるって事でしょ?


私としては、蓮斗さんが好きだから嬉しいけど……でも、蓮斗さんが本当に私の事を好きかどうかは分からない。

だから、迷っていたのに来てしまったのよね……。



「由樹……お前、俺に抱かれても良いと思っているのか?」


「えっ?」


き、急に……そんな質問されても困ります!

だって……その、本人を目の前にして『嫌じゃない』とか言えないよ……。


「フッ……。お前にその覚悟があるなら、隣の部屋に入ってこい。俺は先に行ってるから」


「さ、先に!?」


そ、そんな……!


「帰りたいなら、帰って良いぞ?ただ、この部屋代が無駄になるだけだしな」


「えっ……」


ここ、こんな高級な部屋を蓮斗さんが予約したんですか!?

この為だけに!?


「じゃ、お前の心が決まったら……行動しろよ?ただし、待つのは5分だけだ。それ以上は待てないからな」


そう言うと、蓮斗さんは隣の部屋に行ってしまった。

……5分。

長いようで短い時間。


私……どうしたら良い?

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