(4)戦後の反省

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< Side:キラ >


 結論からいえば余裕をもって勝利することができたイトウ家との戦いだが、すべてが思惑通りだったというわけではない。

 一番大きかったのは、予想以上に子眷属が活躍することになったことか。

 できることなら単純な力押しだけで勝つことができればよかったのだが、通常の蜂を使役するという絡め手まで見せてしまった。

 あの時は一番犠牲が少なくなるということで了承したのだが、後になってちょっとやりすぎだったかと反省した。

 というのもユグホウラが普通の蜂を使えることをあの戦いで見せた以上は、別の方法で利用していると当然のように考えるだろう。

 となると今後は偵察も今までのように、無警戒のまま潜り込むということができなくなってしまう。

 

 ホームに戻ってからそんなことを考えていた俺だったが、シルクとクインから同時にこう言われてしまった。

「そのような些事はわたくしたちが考えるので、主様は気になさる必要などありませんわ」

「シルクの言う通りです。偵察というのは相手に防諜されることを前提に行うものなので、対応されてもそれを超える策を練ればいいのです。それに、そもそもそう簡単に対応できるとも思えません」

「そうなのかな?」

「偵察に使っている子供たちは、今回の戦で使ったものとは別物です。そもそもの地力が違うので、あまり心配はしておりません」

 

 さらに詳しく聞くところによると、偵察部隊で使っている蜂や蜘蛛はそれ自体が高い力を持っている種で、各種耐性も戦で使った蜂とは比べ物にならないくらいに高いらしい。

 戦で使った蜂はあくまでも召喚された種で、一時的にしか使えない間に合わせのものでしかないのでそこまでの耐性は持っていないそうだ。

 そんなわけで、そのあたりを飛び回っている種の蜂だと考えて対応策を練ってもあまり意味がないとのことだ。


「――そういうわけですから、逆にそれで安心してくれるくらいならむしろ今後の偵察がやりやすくなりますわ」

「そうですね。主様がお作りになっている属性魔石は、それほどの効果があるのです」

「属性魔石から直接作られている眷属は、それだけ強い耐性を持っているので心配ない、と」

「はっきり言ってしまえばその通りですね。ついでに言うと、それだけの対応ができるのであれば、そもそも普通に出現する魔物を相手にこれほど手こずったりしていないでしょう」


 偵察部隊の蜂や蜘蛛を沈黙させるような毒なりを作れたとすれば、それは即魔物相手に使える毒になる。

 そんなものを開発できているのであれば、領地を広げるために最初から使っているだろう。

 住む場所を確保するだけでも苦労している現状で、そんなものを人族が持っているはずがない――というのがシルクとクインの言葉だった。

 もっというとそんな強力な毒なりがあったとしても、使った場合は人族自体に多大な影響を及ぼすことになるとも。

 

「うーん……何というか、心配しすぎってことかな」

「いえ。主様はそれでよろしいかと思います。だからこそ私たちは色々な対応を考えることが出来ます」

「≪≪元≫≫人族ならではの視点であったり、慎重すぎるほどのお言葉があるからこそ今までやってこれているのですわ。わたくしたちはどうしても持っている力を過信してしまう部分がありますから」

「そうかな? どういってもらえるとありがたいけれど……よしっ! それじゃあ、反省はここまでにしようか」


 ずっと心配ばかりしていても仕方ないので、気持ちを入れ替えて今後についての話をすることにした。

 ツガル家とイトウ家の戦は、イトウ家が完全に降伏したことで既に小競り合いすら起こることなく完全に収束している。

 さすがに当主一家は処分が決定しているが、元居た家臣たちはそこそこの役職を与えられて今後も領地の運営に関わっていくことが決まっている。

 今後はツガル家の一部となる町や村などに残って代官的な役目を負ったりするのだ。

 

 そうすることによって領民たちの不満を抑え込むという目的があるのだが、逆にその領民たちをまとめて反乱を起こすということも考えられなくもない。

 当然ながらツガル家の家臣団もそのことは警戒しているが、そもそも本島での戦いの歴史はそうやって繰り返されてきたので、そこまで大きな反乱は起きないと考えているようだ。

 昨日の敵が今日の友……ではないが、たとえ元敵だったとしても有用な人材はしっかりと恩賞を与えて報いていくという価値観が根付いているようだった。

 この辺りは俺が知っている日本の歴史とも重なる部分が多少なりともあるが、ただの偶然なのか環境による歴史的必然なのかはよくわからない。

 

 ともかくイトウ家との戦いに勝利したツガル家は、これまでと比べて倍近い領地の豪族ということになった。

 さすがにそこまで広大な土地を持つ豪族は列島中を探しても片手に入るくらいの規模になり、各所から注目されることとなる。

 そうなれば当然、一緒に行動していたユグホウラの存在も一気に広まることとなる……のだが、だからといってそれを利用して一気に表舞台に立つつもりは全くない。

 ユグホウラはあくまでも人族の上に立つつもりはなく、適度な距離感を保って関係性を築いていくつもりだ。

 

「――一応確認だけれど、ここで勝ったから次も! なんてことを言い出すことは無いと思うけれど……どうかな?」

「新しく生まれたばかりのレオやランカは気分が高揚している感じはありますが、それもいきなり暴走するような感じはありません。他の者は……いつも通りですね」

「いつも通りね。納得」

 含みを持たせたクインの言い方に、俺も苦笑交じりで返した。

 

 いつも通りというのは本当に文字通りの意味で、戦闘狂の疑いがあるファイは戦が終わるなり領域の攻略に向かっていた。

 それも以前から行われていることの延長で、決してこちらの指示を無視しての行動ではない。

 ファイにとっては、領域の拡張で行われる戦闘こそが本命で、他の戦いはおまけ程度でしかないのだろう。

 勿論おまけとはいっても、戦いは戦いなのでいつも本気で戦っているのだが。

 

「まあいいか。とりあえずレオやランカは注意して見守っていく感じで。あとは平常通りに戻って行くことになるかな。ただ今後は外交関係で忙しくなりそうだけれど」

「はい。既にサダ家からは面会の打診も来ております」

「あら。そうなんだ。聞いていないけれど?」

「イェフからもしかするとあるかも知れないといわれているだけなので、きちんと正式な依頼が来ればお話しすることになります」

「なるほどね。それにしてもサダ家か。どういう方針で来ると思う?」

「さて。これまで通りにつかず離れずで行くのか、あるいはもっと思い切った方針転換を図ってくるのか……どちらもあり得ると思います」

「わたくしもそう思いますわ」

 クインとシルク、両方から断言されて、俺としてもそうかと納得するしかない。

 通常であれば事前に話を詰めたうえで最終的にトップ同士で合意という形になるのだが、どうもそういう方針ではいかないような感じがする。

 

 サダ家の当主が何をどう考えているのかはわからないが、こちらとしてはツガル家とは違う特別な対応をするつもりはない。

 いっそのことツガル家の重鎮の誰かも同席してもらおうかなんてことも考えたが、さすがにどういう内容になるかもわからない時点で決めるようなことではない。

 いずれにしてもあちらの思惑が分からない限りは、こちらの対応方針は決められないので何かを決めることなくこの場での話し合いは終えた。




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