閑話19 ドワーフ来訪(後)
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< Side:クイン >
ダークエルフの里を出発してから三日後、少しゆっくり歩いていたけれども整備された道はやはり歩きやすかったようで、特に問題が起こることなくドワーフの里建設予定地に着きました。
その予定地は、ドワーフが来ると分かってから主様がアンネに頼んで作っていた場所になります。
なんでも今後ドワーフが増えることも予想してさらに拡張ができるようになっているとのこと。
ドワーフの里は地下になる予定なのですが、すぐに地上に出れるようにあちこちに出入り口も設けられているようです。
ただドワーフにとって一番大事だったのはそこではなく、やはり彼らの商売の種である鉱脈だったようで、すぐに案内してくれと頼まれました。
まだ荷ほどきも終わっていないようだったので大丈夫かと問いかけましたが、そこはきっちりしているようで代表者だけが行くとのことでした。
そして長も含めた三人のドワーフを連れて、鉄の鉱脈のある場所へと案内しました。
といっても鉱脈まで案内したのは、蟻種の子眷属だったのですが。
その子眷属に案内された鉄鉱脈の場所は、里予定地からほど近い場所にありました。
これなら遠い場所を行き来する必要もないので、加工も楽になるでしょう。
ただ私にとってはそちらの方が気になっていたのですが、ドワーフにとっては別の事のほうが重要だったようです。
その重要なことが何かといえば――、
「おおっ! なんと素晴らしい!」
案内された鉱脈を確認して、真っ先に長がそう発言していました。
何のことかといえば、鉄の鉱脈として質の高さが以前いたところよりもはるかに高いということでした。
見れば長に着いてきていた他の二人のドワーフも、しきりに壁をコンコン叩いては満足そうに頷いています。
……私から見ればどこの鉄鉱脈もほとんど同じように見えるのですが、やはり専門家からみると違うようです。
いずれにしても彼らが納得できる鉱脈であるならば、いきなり旅立たれるということにはならないでしょう。
私としては彼らが満足できるものを提供できたことで心の内でホッと胸をなでおろしていたのですが、彼らの案内はそこでは終わりませんでした。
ドワーフが満足げに壁をコンコンしている間に、アイ様とアンネがやってきて長にさらに案内したいところがあると言ってきたのです。
そんな予定はもともとなかったので内心で首を傾げていた私でしたが、勿論顔に出すようなことはしません。
アンネはともかくアイ様までいるということは、ダークエルフの里まで転移装置を使わずにわざわざ陸路を使ったのは彼らの人となりを見るためでもあり、その裏試験に合格したということなのでしょう。
鉱脈を見て喜び勇んでいるドワーフたちに、アンネが他に案内したいところがあると申し出て、長がそれに対して了承していました。
そこからしばらくは私の出番はほとんどなくなり、アンネの独壇場になっていました。
というのも、アンネが案内した場所は、鉄鉱脈以外の鉱石が出る鉱脈だったのです。
そのどれもが質の高い場所だったようで、ドワーフはそれぞれの鉱脈を見るたびに喜んでいたほどでした。
ドワーフが中でも喜んでいたのは、ミスリルの鉱脈がある場所に案内された時でした。
「なんと……! これほどのミスリル鉱脈を見るのは、儂も初めてだわい」
「この島はほとんど人の手が入っていないから、手つかずなのは当たり前よ」
「それはそうだが……にしても里から少し遠いのが難点か。いや、今まで案内された場所を考えるとあの場所が一番……となると……」
長は仲間のドワーフに鉱脈の確認は任せてしまい、その場で何やらぶつぶつと呟きながら考え事を始めてしまいました。
確かに長が言っていた通りに、ミスリル鉱脈がある場所は、里からはやや遠い場所にあるように思えます。
というよりも他の鉱脈が里の位置から近すぎる場所にあるということでしょう。
一か所にここまで色々な鉱脈があるのは不自然なようにも思えますが、それもこれも世界樹様の恩恵だということにしておきましょう。……主様に聞かれると速攻で否定されそうですので、直接言葉にはしませんが。
しばらくして長の考えがまとまったのか、未だに鉱脈を見て盛り上がっている他の二人に檄を飛ばしていました。
アンネの案内がここで終わりだということは聞いていたのですが、まだアイ様が残っています。
長は私たちの態度からアイ様が上位にいることは見抜いていたようで、二人を諫めた後に謝っていました。
もっともアイ様はそんなことは全く気にされるような方ではないので、あっさり「問題ない」と返されていましたが。
案内がアンネから変わってアイ様になると、里(予定)にある地上への出口から出て外へ向かい、そこからしばらく歩いてホーム周辺へと向かいました。
世界樹様は周辺に濃い魔力を纏っているお陰なのか、近づくまでそのお姿を見ることはできません。
その姿を見るためには、私たちが『ホーム周辺』と呼んでいる場所にまで近づく必要があります。
そのホーム周辺まで近づいて真っ先に世界樹様のお姿を見たドワーフたちは、さすがにそのご威光に言葉を失っているようでした。
彼らがそうなることが分かっていたのか、アイ様も敢えて先を促すようなことはせずに黙ったままでした。
やがて長がハッと気づいたように頭を下げてきましたが、私たちにとっても誇らしいことなので謝られるようなことではありません。
アイ様もそう考えていたのか、すぐに謝罪は必要ないと伝えていました。
そんなアイ様が案内した場所は、ホーム周辺に建てられた建物の一つで、
ちなみにドールの研究所は一つではなく他にもあるのですが、そこはわざわざいう必要はないでしょう。
アイ様も特にそのことについて言及することはありませんでした。
ここまで案内してきた以上別にばれても構わないのでしょうが、こちらから言う必要もないということでしょうか。
建物の中に入ったアイ様は、さらにその中の一つの部屋に案内していました。
その部屋には色々な物が雑多に置かれていて、倉庫代わりに使われているように見受けられます。
それらの物はドールたちが作った魔道具なども含まれているので、ドワーフたちも興味深げに見ています。
不用意に近寄って手にしようとしないのは、私たちの距離感を既に把握しているということでしょうか。
私では把握できないような数の道具類の中に突っ込んでいったアイ様は、すぐに目的の物を見つけて戻られました。
その手には、いくつかの棒状のようなものが抱えられています。
「これを――」
アイ様からそう言われて差し出された物を受け取った長は、手触りを確認するように手を滑らせてからすぐに顔色を変えました。
下手をすれば、世界樹様を直接見た時よりも大きな反応です。
「こ、これは、まさか……? でも、どうやって……!?」
「私たちが錬金で作った。でもちゃんとした炉と手順がないと、加工が上手く行かない」
「それはそうでしょう。私たちも研究が必要ですが……これを下さると?」
「違う。一緒に研究を進めたい。他にも見てほしい合金はある」
「なるほど。それは確かに必要でしょうな。場所はこちらで?」
「しっかりした炉は里に作ったほうがいいから、あっちの方が都合がいい」
「そういうことでしたら確かに。こちらも準備を進めておきます」
「お願い」
私には何が何やら分かりませんでしたが、どうやら二人の間では話がまとまったようです。
長から何かの合金らしき物を渡された他のドワーフも長と同じような反応をしていたことから、それが素晴らしい物であることには違いないのでしょう。
後から詳しくアイ様には聞いてみるつもりですが、私にどこまで理解できるかはわかりません。
いずれにしてもアイ様が渡した合金は、ドワーフにとってはこれまで案内してきた鉱脈以上の価値があるようでした。
そういうわけで、この日ドワーフに案内すべきところは全て終わりました。
翌日以降は本格的に活動を始めるべく、里の建築を始めていました。
そうこうしているうちに主様も進化を終えられて対面することになるのですが……。
未だに自然のうちに放出してしまう魔力のコントロールに慣れておられないのか、対面するなり跪けられて慌てていたのを目撃したときには、つい微妙な顔になってしまいました。
……ああいう時には、主様的には笑ってしまったほうがよかったのでしょうか……。
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