第8章

(1)新たな仲間と新たな季節

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 ハウスで数時間過ごしてからホームに戻ると、時間的には三日ほど過ぎていた。

 相も変わらず時間感覚がわからなくなるが、既に眷属たちはそういうものだと受け入れているらしい。

 領域の運営は大きな変化もなく安定しているので、俺の出番が来ることはほとんどないのだろう。

 以前からちょくちょくやっていたのだが、空いている時間は領域内をさまよい歩いて色々と見て回るのもいいだろう。

 ついでに魔法の特訓なんかもできるので時間が余って困るということはない。

 

 ハウスに行っていた間、アンネが進化のために活動を停止していたのだが今もなお動きに変化はないらしい。

 他の眷属の進化の時と比べても長めだと感じたのだが、はたから見ている感じでは特に急を要するような事態にはなっていないらしい。

 もしかするとアンネの種族特性として時間がかかるようになっているのかもしれないというのが、数時間前に様子を見てきたというラックからの言葉だった。

 魔物の活動に関しては俺よりも眷属たちの方が詳しいので、変に疑問を投げかけるわけでもなくその言葉をそのまま受け入れている。

 

 そしてその言葉通りに、アンネは休眠期間に入ってから一週間後に目覚めることとなる。

 ……成長した姿になって。

 

 以前はそれこそ幼い子供の姿だったのが、目覚めて目の前に現れた時には中学生くらいの背丈になっていたのだから驚かないわけがない。

 舌足らずだった口調も完全に大人への階段を登ろうという感じになっている。

 もっとも顔の特徴は以前のものをそのまま引き継いでいるので、見間違ったりするようなことにはならなかった。

 もし一言目に「誰?」とでも言おうものなら、怒らないまでも悲し気な表情になっていただろう。

 

 とはいえ成長した姿に驚いたのは確かだったので思わず惚けていると、アンネが小さく首を傾げながら問いかけてきた。

「ご主人様?」

「ご主……いや、何も言うまい。――思った以上に大きくなっていたから驚いていただけだよ」

「そうなの?」

「そうなの。それはいいとして、そっちの二人は?」

 アンネが進化を終えて自力で地下の穴の中から出てきたのはいいが、なぜか彼女に付き従うように小学生くらいの姿をした蟻人が着いてきていたのだ。

 余談だが二人とも中性的な顔立ちをしているので、見ただけでは性別がどちらかはいまいちよくわからなかった。

 

「はい。紹介します。私の側付きにあたる二人です。進化できたので一緒に生まれてきました」

「あ~。蟻ってそういう風に増えるのか」

「ご主人様。この二人は特別です。他の子たちは、シルク姉さまやクイン姉さまと同じように増えていくはずです。……私にはまだできませんが」

「あら。そうなんだ」


 少し話をしただけで色々重要な情報が出てきたので、整理するために頭をフル回転させる。

 その様子に気付いたのか、フォローする意味合いも含めてたまたま横にいたクインがアンネに問いかけていた。

「二人が特別ということは、次の進化では同じような存在は生まれて来ないのですか?」

「絶対とは言い切れないけれど、たぶん。恐らく次は子眷属を作るための体になるはずだから……」

「なるほど。母体……といっていいかはわかりませんが、とにかく体づくりのために得たエネルギーをそちらに使うというわけですか」

「そう、なる、はず?」

 アンネもいまいち自身がないのか、首を傾げつつ答えていた。

 ちなみに未だに後ろに控えたままの二人は、黙ったまま彫像のように動いていない。

 時折アンネと同じように頭の上に生えている触覚がピコピコと動いているので、ちゃんと意識があることはわかる。

 

「わかりました。それでは、以前よりも多く魔石が必要になるはずです。それからそちらの二人の分も。それらの管理はあなた自身がきちんと行いなさい」

「わかった」

「あら。アンネに任せるんだ」

「今後のためにもそのほうが良いでしょう。それに生きていくために魔石(魔力)がどれくらい必要になるのかは本能でわかるはずですから。むしろアンネが分からないと他の誰にもわかりません」

「そういえば、種族ごとに必要な魔力も違っているんだっけか。わかったよ。それじゃあアンネが必要だという分だけ渡していくよ」

「はい!」


 アンネが元気に返事をしたことで、その場で決めるべきことは決まった。

 そのあとは後ろに控えていた二人に話題が移ったが、その二人についてはアンネがウギとサギという名前を付けていた。

 ウギとサギは、傍にいる魔物としては少々特殊な立ち位置にいて、眷属という枠内には入っていない。

 ただアンネの進化に伴って生まれた存在なので世界樹の魔力の影響を受けているのは間違いないのだが、あくまでも彼(女?)らが命令を受け付けるのはアンネのみということらしかった。

 

 シルクやクインの子眷属たちは、必要に応じて俺からの命令も忠実に実行するのでそのあたりは確実に相違がある。

 ついでにいえば、今後生まれてくるであろうアンネの子眷属も俺の命令を受け付けないということにはならないはずだ。

 これらのことは、アンネの説明とクインの補足で分かったことだが特にこちらから言うべきことはない。

 アンネのためだからという理由をつけてウギやサギが何かを仕掛けてくる可能性もあるわけだが、まず行動に移すことはないと考えている。

 二人がおかしな真似をすれば間違いなく他の眷属が気付いて対処するだろうし、何よりもアンネがそれを許すはずもない。

 そうなることが分かっているので、こちらから注文を付けることなど何もないというスタンスを取ることにしたのだ。

 

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 アンネの進化が終わったあとは、これまで通りの日常に戻っていった。

 ファイを筆頭に領域の拡大は順調に進んでいるし、新たに加わった蟻人の二人も馴染んでいるように見える。

 もっともウギとサギは基本的に穴の中にこもって空間を拡大することに時間を割いているので、ほとんど地上に姿を見せることはない。

 アンネにいわれるままに一日に一度程度、俺に対して挨拶をしに来るくらいで、それ以外はずっと穴を掘っているのではないかと思うくらいだ。

 その空間は、どれだけ掘れば気が済むのかというくらいに拡大をしているわけだが、彼らの好きなようにさせるという方針は変わっていない。

 

 というわけで以前とは違ったことも起こりつつ同じような日常に戻ったわけだが、それまでとは違ったちょっとした変化が春先に起こった。

 その変化が何かといえば、ルフとミアの子供たちである三体の魔狼がそれぞれの相方を見つけるための旅に出たのだ。

 もっとも旅に出たといっても海を越えて他の島や大陸に行くわけではないので、ほとんど領域内で活動することになるはずだ。

 これまで大体ホーム周辺でウロチョロしている姿を見ていたわけで、それが無くなった寂しさというものは沸いてきていた。

 ルフやミアの言葉を信じるならばきちんと相手を見つけられれば戻って来るとのことだが、それでも一時の寂しさを感じるのは仕方ないことだろう。

 

 とはいえ、一時的に去る者がいれば加わる者もいるわけで、春になって種植えの季節になったことで再びダークエルフの里から研究要員としての人員がやってきた。

 今回からは五人と人数が増えているのだが、これは昨年の研究結果が里にいい成果をもたらしたことによるものだ。

 以前来ていた三人の顔ぶれは変わっていないのだが、新たに加わった二人は魔法と農業に詳しい人員となる。

 里のためになるのであれば今後も人員は増えていきそうだが、それがどこまで続くかはわからない。

 敢えてこちらから人数を指定するようなことはしていないので、里の方針によって変わっていくはずだ。




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