(4)開発と誕生
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長老との話し合いは、結局いい結果が見つからずに保留のまま終わった。
できることなら交流の道筋を見つけておきたかったところなのだが、妙案が見つからなかった以上は仕方ない。
そんな気持ちがクインにも伝わったのか、ホームに戻った時に話しかけられた。
「やはりいい返事はもらえませんでしたか」
「そうだねえ。やっぱり距離が問題になるよ。どう考えても気軽に行けるような道のりじゃないからね」
「人の足だとそうなりますね。転移は無理なんでしょうか?」
「転移? 他の人を連れて行くってこと?」
「そうですね」
「あ~。どうなんだろう? 最初から無理って決めつけていたから、考えたことがなかったな」
「道具の移動は出来るのですよね?」
「ある程度の大きさのものまでだったら出来るね。……そうか。転移か。ちょっと試してみるか」
「主様。少しお待ちを。いちいち主様が対応するとなると問題ですので、まずはシルクに聞いてみてはどうでしょう?」
「必要なことだから俺がやってもいいんだけれど……といっても無駄に皆を動かすことになるからそうしたほうがいいか」
いまさらダークエルフが直接俺に対して何かをしてくるとは思わないが、それでも護衛なりなんなりをつける必要は出てくる。
それくらいであれば、最初からシルクの仕事にしてしまったほうがいいというのがクインからの提案だった。
確かに俺自身がダークエルフの転移をするとなると、反対する眷属も出てくる可能性が高いのでそうしたほうがいいだろう。
そう考えてシルクに聞いてみたが、返ってきた答えは「無理」だった。
俺と同じようにあり程度の大きさのものまでは移動できるのだが、生物に関しては別の法則が働いているのか、どんなに小さいものでも移動はできなかったそうだ。
もしかすると魔力が足りていない可能性もあるというのがシルクの考察だった。
試しに俺自身も確認してみたのだが、シルクの言うとおりにその辺にいる小動物を捕まえて実験したが、そもそも魔法の発動すらしなかった。
それに一か月から数か月に一回程度のやり取りになるとしても、その都度俺やシルクが駆り出されることになるのは少し問題がある。
他の町との交流は意義のあることなのでそれくらいの手間をかけること自体は問題ないのだが、町で交渉を行ったダークエルフと俺やシルクがやり取りをしているところを見られると少々まずいことになる。
いずれは俺自身や眷属たちの顔を知られてしまっても構わないと考えてはいるのだが、今はまだその時期ではない。
より具体的にいえば、北海道全域の攻略が終わった辺りから俺たちの存在を周辺諸国に知らしめるのがいいだろうという考えだ。
その考えは眷属たちにも伝えているので、ダークエルフの里を攻略した時と同じように、今は出来る限り姿を見せないように行動してもらっている。
となるとやはりダークエルフを動かすのが一番なのだが、さてどうしたものかと悩ましい展開になってしまった。
再び振り出しに戻って頭を悩ませることになったのだが、ここで救い主が現れることになる。
クインとシルクを交えて転移について話をしている時に、たまたま作業を終えて戻ってきたアイが話に混じってきたのだ。
「――転移の話?」
「そうだね。俺やシルクが直接関わらずに、どうにか道具だけでもやり取りできないかなと思ってね」
「……どれくらいの量ですか?」
「ひと月から数か月に一回の割合で交易できるくらい……ってか、何かできるような心当たりでもあるの?」
「ある。ご主人様とシルクのを見て、思いついたことがあったから試してみたことがあります」
「具体的には?」
「転移陣ができないかと思ってやってみましたが、その時は小さな物ならどうにかという感じでした」
「その時はということは、改良の余地がある?」
「あります。ただ、実験するのに色々と素材が必要」
「なるほどね。そういうことだったら話は早いかな」
俺がそう結論を出すと、すぐに他の面々も理解したような表情になった。
実験するための素材が足りないというのであれば、アイの研究に合わせて素材を採りに行くようにすればいいだけだ。
目的もなしにただただ魔物を倒していくのと目的の物を集めるために倒していくのでは、効率が全く違ってくる。
アイもそれが分かっているので、期待するような態度になっていた。
「ただ転移陣の開発にすべてを振り分けるとなると攻略の進みが遅くなる……かな?」
「どうでしょうか。集めてくる素材にもよると思いますわ」
「それもそうか。その辺はどうなの?」
「中には入手が難しいものもある」
「それはそうか。転移陣だしね。それは仕方ない。今は転移陣の開発を優先ということにしようか。攻略はその合間を縫ってという感じかな。どうせ冬が本格的になっていくから、攻略が遅くなるのは想定の範囲内だしね」
「畏まりました。皆にもそう伝えておきます」
クインが代表して返答したところで、当面の間はアイの転移陣開発を優先して行うことになった。
絶対に開発ができるとは限らないのだが、アイのことだからきちんと結果を出してくれるだろうという信頼もある。
結果として転移陣の開発がうまくいかなかったとしても、それはそれで別の攻略方法を考えればいい。
領域化についても完全に止まるわけではないので、多少遅くなったとしても大きな問題にはならないだろうと考えている。
転移陣がうまく開発できれば、もしかすると他のプレイヤーにも高く情報が売れるかもしれないという捕らぬ狸の皮算用もあるのだが、それはまだ二の次の話である。
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アイの開発を待つ間に、冬が本格的になってきた。
その間もファイを中心とした領域化は進んでいる。
さらに極寒の因子を混ぜた新しい種を作って、ダークエルフの里で育ててもらうように勧めてみた。
冬の間は本格的な農作業ができないので、長老はありがたがって試してみると張り切っていた。
冬の間も作れる野菜なんかができれば、それはそれで大成果と言えるだろう。
そんなことをしている間に、これまでもちょこちょこと忘れないように触れていたある物がついに動きを見せることになる。
そのある物というのは、世界樹の根元で育てていた魔物の卵だ。
今では完全に雪に埋もれてしまって表からは見えなくなっているのだが、本体を通して分体を作れる俺にとっては雪の壁はほとんど関係がない。
卵自体は根で保護をしているので雪に直接触れておらず、外気温と比べて暖かい空間になっている。
これまで世界樹自体から熱を感じることは無かったのだが、こうして特殊な空間を作ると多少なりとも熱があることがわかる。
そんな空間でしっかりと魔力の供給を受けていた卵が、数時間ほど前からひび割れが始まっていた。
始まった当初はずっと見守るつもりでいたのだが、話を聞いた眷属たちがそんなに早く出てくることはないので、焦らせる必要はないと諭されてしまった。
そこまで言われるとずっと見ているわけにもいかず、三時間ほどの時間をおいてきたのだが確実にヒビは大きくなっている。
というよりも、卵の上部にこぶし大ほどの綺麗な穴が開いていて、そこから魔物が顔をのぞかせつつ一心不乱にその穴を大きくしようと殻をカリカリと手を使って砕いている。
その卵が蟻系のものだということが分かっているので蟻の顔が出てくることを予想していたのだが、何とその予想に反して人間の子供のような顔が見えていた。
すでに頭も半分ほど出ていてこちらのことも認識しているのか、時々ちらちらと視線を向けてくる。
それでもまだまだ卵から体全体が出切っているわけではないので、今はそちらを優先しているようだった。
こちらの言葉が通じるのかはわからないが、ゆっくりと自分のペースで話しかけていることもあるのかもしれない。
殻の穴から見える姿は元気そうなので、今はとにかく無事に出てくることを願って見守り続けるのであった。
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