(3)帰還
本日(2020/11/28)投稿1話目(1/2)
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ハウスでやることも終わって、次はようやく転移世界へ……と考えていたのだが、ふと一つ掲示板に情報を落とすことを忘れていたことを思い出した。
それが何かといえば、あちらの世界の地形がどうも北の大地に似ているっポイということだ。
もしかしたら転移世界の地形が地球と同じ形だと分かれば、他のプレイヤーたちにとって有利になることもあるかも知れない。
そう考えてまったりモードに変わっていた掲示板に、伝えるのを忘れていたことを前置きしてから地理情報を伝えた。
するとすっかり落ち着きを取り戻していた掲示板が、またにわかに騒ぎ始めた。
当然ながら似ているだけじゃないかという突っ込みもあったが、星空(夜空)に関しての話をすると「そういえば……」と言い出すプレイヤーも出てきた。
全員が地球と同じような星の配置をしているというわけでもなさそうだが、少なくとも片手で数えられるくらいの人数は思い当ることがあるようだった。
ちなみに少ししてからわかるのだが、キャラ作成時に地球と同じ地形にするかを選択できる場所があったようだ。
ほとんどの者はそれを見逃していたようで、さらに俺と同じように『運営おすすめ』で作成した者たちにとっては関係のない選択肢だったともいえる。
ほぼ戦略シミュレーションだと確定している俺の場合は、地形が分かっていると有利になることも多いはずなので存分に活用していきたい。
……まだ地球と同じ地形だと確定したわけではないのだが。
というわけでハウスでやることが完全に終わったので、ようやく転移世界へと戻ることにした。
端末で確認していた時間だとハウスにいたのは約七時間程度だ。
この時間で、あちらの世界がどの程度時間が経過しているのが今一番の関心事だ。
できれば一週間以上経っているなんてことにはなっていてほしくはない。
そして端末で先ほど確認した項目をクリックすると、一瞬で世界樹(本体)の中に戻っていた。
感覚としては、特に感じるようなものはなかった。
人の体から目のない体に戻ったので少しの間混乱はしたが、そこまで大きな支障が起こったわけでもない。
半年以上この体で生活していたのだから当然なのかもしれないが、それでも多少の驚きはあった。
ここでふと思ったのだが、チュートリアルの期間はもしかしたら人外の体に慣れさせるための期間だったのかもしれないな、と。
事の真偽は運営に直接聞かないと分からないが、もしかしたらそれも理由の一つとしてあってもおかしくはないだろう。
木の中でそんなことを考えていたのは一分ほどのことで、すぐに分体生成をして精霊の姿になった。
外に出てから辺りを見回してみると、女性三人組が少し驚いた様子で世界樹を眺めていた。
どうやら分体生成をした俺には気付いていないようなので、こちらから声をかけることにする。
「アイ、シルク、クイン。戻ったよ」
「「「主様!! おかえりなさいませ」」」
練習をしていたのではないかと思うくらいに声を揃えた三人組に、俺は「ただいま」と返した。
「さっそくで悪いんだけれど、一つ確認したいことがあるんだ。俺が向こうに行ってからどれくらいの時間が経った?」
「ちょうど一週間程度になります」
「げ。やっぱりそんなに時間が経っていたのか。……これは掲示板案件かな?」
「はい……?」
「いや、なんでもない。とりあえずその間なにか変わったことはあった?」
「はい。幾つか報告をしたいことが……皆が戻ってからにしますか?」
「そういえばルフたちは姿が見えないな。狩りにでも行っているのかな?」
「狩りと調査ですね」
「そう」
「私たちは既に情報を共有しているので個別に報告しても問題ないのですが、いかがいたしますか?」
「そうだなあ。報告は……あ、そうか。報告は少し後にしようか」
いきなり個別に報告を受けてもよかったのだが、確認しておきたいことがあったことを思い出した。
突然周囲をキョロキョロしだした俺に、女子組が不思議そうな視線を向けてきたが、それに答える前に目的のものを見つけた。
流石に世界樹だけあって幹の太さだけでもかなり太いので、今いる場所からはちょうど見えない位置に
見た目は豪勢というわけではないのだが、それでもこの場にあるには不自然すぎる物体に思わず苦笑をしてしまう。
もっとも周囲との落差はともかく大事な物が入っているのは間違いないので、ある意味では正しい見た目なのかもしれない。
そんなことを考えながら宝箱まで近づいた俺だったが、目の前まで来てからあることに気が付いた。
「あ~。ごめん、アイ。ちょっとこの箱開けてくれるかな? 俺が持ってきたものだから特に警戒する必要はないから」
妖精の状態になっている今だと、目の前にある宝箱は大きすぎて開けられなかったのだ。
ハウスに行く前の俺だったらそんなことは感じなかったのだろうが、少しでも人の体に戻ってしまうとやはり不便さは感じてしまう。
俺の言葉に、アイが近寄ってきて宝箱を開け――ようとした。
だが宝箱の蓋を持ち上げようとしたアイは、すぐに困ったような雰囲気になって俺を見てきた。
「ええ? 鍵がかかっている? ……って、それはそうか」
こんな自然の中にポンと置かれている宝箱なのだから、当然のように
さてどうしたものかと悩んでいた俺は、何の気なしにその宝箱に触れた。
するとそれが合図だったかのように、例によってメッセージが届いた。
《初めてアイテムボックス(ハウス経由)に触れました。セキュリティ設定を行いますか?》
まるで俺たちのやり取りを見ていたかのようなタイミングで出てきたメッセージだが、ただの偶然だということは内容を見ればわかる。
ただ単に妖精であるという俺の現状が特殊過ぎたので、触れるのが遅れたためにこのタイミングになっただけだ。
とにかくセキュリティ設定ができるようなので、すぐに内容を確認した。
その内容に従って、今いる女子組に宝箱に触れてもらって開封の許可を出しておいた。
許可を出してから改めて中に入っていた物を取り出してもらった。
「主様、これは……?」
「皆が頑張って取って来てくれた魔石を使って交換した物だね。だから遠慮なく使っていいよ。そうそう。今回持ってきた物は、皆で共有して使うように」
「本……ですか」
「そういうこと。魔法関連の物から錬金関連の物まで。――錬金に関してはアイに使えるかと思って持ってきた」
俺が付け加えてそう言うと、アイが「私?」と言わんばかりに自分自身を指していた。
「他にも武器やなんかもあったんだけれど、そもそも君たちに何が適しているのかわからなかったから今回は見送っておいたよ」
「私たちのためにわざわざ……ありがとうございます」
「クイン、それ駄目。結局は、俺にも君たちに強くなってもらうという打算があるんだから『わざわざ』なんて言う必要はないよ」
「は、はい。失礼いたしました」
全く違う種族をまとめなければならないのだから上下関係は必要だが、むやみやたらに自分を卑下するような言動をする必要はない。
そう付け加えた俺に、クインは何やら目を潤ませていた。
そんなこんなで無事にあちらからのアイテムを持ってくることができた……のはいいのだが、一つ問題があることがわかった。
そもそもこんな大自然の中に本を置きっぱなしにしていると、あっという間に自然の中に還ってしまうだろう。
勿論今日明日にどうにかなってしまうわけではないが、室内に置いておくよりも劣化が激しく起こることは間違いない。
というわけで、持ってきた本たちの保管場所を急遽作らなければならなくなるのであった。
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