第19話 見学に行こう(工造学科編)
「ダメだ、魔導学科はアテにならねえ」
よそのチームの研究成果を
「本当に役に立たねえ奴らばかりだな! 普段遊んでて真面目に研究してねえから、こういう時にお手上げになるんだ!」
「まったくだねホッブ。こんなのばっかじゃ、奨学金を切られるのも当たり前だよ!」
「あのー……言いたくないけど、全部私たちにも跳ね返って来るんだけど」
「遊んでるだけって、まさにおまえらがそうだろ? どのツラ下げて他人にケチつけてんだよ……」
女性陣の力ないツッコミに、男どもが振り返った。
「バカかダニエラ。ケチつけるってのは、自分のことは棚に上げといて言うもんだ」
「そうだよダニエラ。他人のせいにするのはダメ人間の特権なんだからね?」
「自分で言っている辺りがすげえわ、おまえら」
ダニエラはため息をつくと、クラエスフィーナに振り返った。
「クラエス。おまえ、なんでこんなのばっかり拾ってきたんだよ」
そんな彼女にラルフとホッブが感嘆する。
「おおう……流れるようにクラエスに責任を押し付けるあたり、なかなかのクズっぷりだぞダニエラ」
「うるせえっ!」
「僕らじゃ真似できない滑らかさだったよ、ダニエラ! クズの中のクズだね!」
「おまえらに言われたくねえよっ!?」
ホッブが立ち上がり、尻の埃をはたいた。
「仕方ねえ、やりたくなかったが次の手段だ」
残り三人が首を傾げる。ホッブは何をするつもりなんだろう?
「何をやるの?」
一度肩肘張ったホッブが、ちょっと間を置いて……肩を落とすとため息をついた。
「本当はクラエスに危険が及ぶからやりたくなかったんだがな……工造学科の連中の見学に行く」
言われた方はホッブがどこに悩んだのかがわからない。
「……魔導学科も見たから工造学科も見るんじゃないの?」
「別に、工造学科に行ったら何かされるわけじゃないでしょ?」
クラエスフィーナとラルフの質問に、ホッブは肩越しに最後の一人を親指で指した。
「見学に出る前に最初に言っただろうが。工造学に頼ると、図面を描けねえって」
クラエスフィーナとラルフが無言で振り返ると……赤毛のドワーフが中腰で再び固まり、石像のように静止していた。
◆
「取りあえず工造学科の作業の早い連中は、もう隣の池(※湖です)に行って実地試験しているらしい。ざっと岸辺を見て歩こうぜ」
ホッブの提案で、四人は学院の外へと向かった。
馬車の屋根に男の下半身が突き出ている前衛派のオブジェの横を通り、正門を廻って学院の隣に広がるキャロル湖に向かう。
「あの変なオブジェの廻り、ずいぶん見物客がいたね」
「うちの学院だからな、暇人が多いんだろ」
「おまえら……」
到着した湖畔には、確かにすでに何組か実験をしているグループがいる。
「うーん、どれが見込みがありそうかな? 僕らが見てもわからないや」
ラルフが腕組みして首をひねった。パッと見ても門外漢には、
ホッブがダニエラに意見を聞いた。
「どうだ? 工造学科から見て、良さそうなチームはあるか?」
「そんなの決まってんじゃねえか」
聞かれたダニエラは、自信満々に湖面を指した。
「遠くまで飛ばしているのが有望なヤツだよ」
「……ああ、簡単な話だったな。専門家の意見としてはがっかりだが」
「坑道技師の卵に空飛ぶ機械の良し悪しを聞くんじゃねえよ」
最初に目に付いたのは、何やら大掛かりな台座を用意しているチームだった。上に乗せた巨大な
ラルフが近寄って見てみると、台座には人間より大きなゴムの帯がセットされていた。察するに、ゴムの伸縮力を利用して人間が乗れる紙(?)飛行機を飛ばそうという発想らしい。
「……なんだか、最近売り出してる鳥の玩具みたいだな」
最近王都の子供たちに人気のオモチャに似ている。鳥の本体と翼をそれぞれ一枚づつの薄板で再現し、Y字の棒の間にゴムの帯をはめたパチンコと称する道具に引っ掛けて飛ばす遊びだ。
忙しく準備をしているスタッフに聞いてみると、やっぱりそういう仕組みらしい。
ホッブが順調に作業が進む様子を見ながら思案する。
「これは……どうかな? 衝撃が強いんじゃないか?」
ちょっと成功を疑問に思っているようだ。ラルフも気になることがある。
「原理は確かに手堅いんだけど……」
「だけど?」
「僕の記憶だと、確か飛ばし方によっちゃ……」
ラルフが言いかけた所で、研究チームの動きが鎮まってリーダーらしい青年が上に乗った。
周囲がみんな黙り込み、実験の成り行きを見守る。
「よし、行くぞっ!」
「はーい!」
自信ありげなリーダーの指示に、発射台に取り付いている下級生がレバーを握る。
「ではっ……三、二、一、発射!」
シュパーンッ!
伸ばしに伸ばしたゴムの力で一気に加速した実験機は、助手の掛け声とともに一瞬で目の前から消えた。目で追うのが厳しいほどの速度で遥か向こうへと飛び去って行く。
そして。
「おぉ……」
観衆が一斉に歓声を上げかけたところで、発射の衝撃で実験機から弾き飛ばされ宙を舞っていた青年が近くの水面へ落ちてきた。
ドボゥン!
「うわぁっ!?」
立ち昇る水柱と降り注ぐ湖水で周囲が右往左往する中、この事態を予想していたホッブがやれやれと首を振った。
「やっぱりな」
慌てて助手たちに救助されたチームリーダーは、意外にもいまだ意気軒高だった。
「なーに、これぐらい予想のうちさ! 思ったよりも打ち出される時のショックが強くて、一瞬手を離してしまった」
予想していたのなら、なぜ対策をしていないのか。
まだ予備機があるらしく、実験を続けるみたいなのでラルフたちも横で見ていることにした。今度は実験機に搭乗者を縄でくくるらしい……部外者から見ると、どう見ても搭乗者というより積載物だが。
作業が進むのを見ていたホッブが、ふと思い出してラルフに尋ねた。
「そう言えばラルフ、おまえさっき何か言いかけたよな?」
「ああ、うん」
もう一回準備が整い、カウントダウンが始まった実験を見ながらラルフが頬を掻いた。
「近所の子供たちが遊んでいるのを見ていたんだけどさ。あのゴムのオモチャ、パチンコへのひっかけ方が悪いと急上昇してその場で宙返りしたり、斜めに飛んでバランス崩していきなり横転墜落したりするんだよね」
再び発射される実験機。
勢いよく飛んでいくかに見えたが、やっぱり搭乗者が乗っている分見た目にも加速が遅い。そしてやはり余計な
「センパァィィィィィッ!?」
巨大な水柱に悲鳴を上げた実験チームが右往左往している。
「しまった、回収に行くのにボートが無いぞ!?」
中途半端に遠いところに墜落してしまい、回収手段がないらしい。
呆れたダニエラが呟いた。
「大掛かりな実験をしているわりに、準備が悪りぃなぁ……」
血相変えて騒いでいた助手の一人がダニエラの知人らしく、聞こえた呟きに食って掛かってきた。
「違う、準備は万端だったんだ! ただ想定外の事が起きただけで!」
「なんで回収に行くのが想定外なんだよ。いいからほら、さっさと助けに行けよ」
実験場の周囲は広がった波紋が岸辺に大波になって押し寄せ、逃げ惑う野次馬と走り回る研究チームで大混乱に陥った。
◆
「発想は良かったと思うんだけどなあ」
クラエスフィーナの感想に、ダニエラが首を横に振った。
「いやあ、どうかなぁ……あれ空は飛んだけどさ、合格ラインは結構遠いぞ? そこまで飛べると思うか?」
ダニエラがパチンコを構える真似をする。
「最初に勢いよく飛んでいくけどな、加速するのは発射時だけだぜ? どんどん速度は落ちていくし、それに合わせて
横を歩くホッブもダニエラの意見に賛成のようだ。
「そもそもだがな。アレ、ラルフが言ってた通り王都じゃよく見るオモチャのデカい版だろう? たとえ合格ラインまで飛べたとしても、審査の導師たちが『未知の技術』と認めてくれるかな?」
「あ、そうか……」
一般に知られている技術や一族の秘伝みたいな過去にできた技術はダメだと……要するに本人のオリジナルの理論でないとダメだと要綱に書いてある。
「んもー! 世界に無いオリジナルな発想で確実に空を飛べる技術なんて、そんなの三ヶ月で完成出来たら今すぐ導師になれるよ! うちの導師会、
「……クラエスの言う事も一理あるな」
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