第58話 過剰な戦力ですね
「【ホーリーレイ】の訓練に的が必要だな」
どこまでも広がっていて先が見えない荒野のこの場所は、岩はあるが的になる様な高い物は無い不思議な空間だ。
所々に魔法を使った窪みなどか、痕跡らしきものが見えている。
「何を的にするのですか?」
ただ空中に魔法を放っても意味がない。
レイナもニコラもそれは分かっている。
「これから作る」
そう言うとニコラは地面手をかざす。
ゴゴゴという音と共に地面が隆起する。
レイナも使っていた魔力を地面に流し畑を耕していた技の応用版だ。
ニコラがやると地形操作も可能となるから才能とは恐ろしい。
地面が盛り上がりレイナ達の背丈を超える高さの壁となる。
それが三個分出現した。
「す、凄いです!」
ニコラには驚かされてばかりだとレイナは思う。
「見てろ。【ホーリーレイ】!」
ニコラから放たれた白い光のレーザーが今作った的に到達するとそのまま貫通。
後には的となった山に丸く空いた穴と焼け焦げた臭いが残る。
威力は見ての通り強力だ。
高速の熱線の様な魔法であり、これを使う時が果たして自分にあるのだろうかとレイナは疑問に思う。
気軽には使えない魔法であるのは間違いない。
「ニコラ様、この魔法私に必要でしょうか?」
レイナが確認したくなるのも当然の事だろう。
「お前も攻撃手段は欲しいと言っていたじゃないか」
レイナとしては確かに魔法は使ってみたいと思ってはいた。
それはゲーム内で使う魔法のイメージであり実際に威力を目の当たりにすると身に付ける必要があるのかとレイナは怖さを感じてしまう。
「使う使わないは別として覚えるべきだと俺は考えている」
いつになく真剣な表情でニコラはレイナに言う。
そんなニコラに戸惑いながらもレイナは聞く。
「それはどうしてでしょうか?」
「兄上も言っていただろ。これからお前が望む望まないは別にして色々な事に巻き込まれる可能性は高い」
「でも王宮の方々に今も守っていただいています」
レイナとしては生活に不安は無いし良くして貰っているので外部からの脅威は感じていない。
王宮にいる限り安全は約束されているはずだとレイナはニコラに確認する。
「まあ、今のところはそうだろうな。王宮にいられるなら問題ないかもしれない。しかしお前の力は希少でありこの国で収まるものでないだろう。いずれ必ず大きな波に飲み込まれる」
予言の様なニコラの説明にレイナは困惑してしまう。
ただ否定するには否定できない何かがあるとレイナも感じている。
「でも、ニコラ様も全属性の魔法を使いこなす希少な存在じゃないですか!」
「俺は男だからな。女のお前とは違う」
「えっ?」
「知られれば、お前を手に入れたい男は大勢いるって事だ」
「どういうことですか?」
「男は欲張りって事だ。強引にでも奪おうとする者が出てくるだろう」
魔法があるこの世界ではそういう事件は現代日本より圧倒的に多く起こっている。
「だからこそ身に付けられるなら自衛の為に強力な魔法も必要って事だ」
「は、はい」
レイナとしては不本意だが必要なのは分かった。
「まあ、決まっていない未来の事はこれぐらいにして今できる事をやるしかないだろ?」
「そうですね」
「じゃあ、そこの壁の前に立て!」
「へっ?」
ニコラが指定したのは的の前。
前にもあった様な嫌な予感をレイナは感じ、冷たい汗が背中に流れるのを感じる。
その予想は間違っておらず以前にも聞いたような台詞をニコラは言う。
「今からお前に【ホーリーレイ】を撃ち込む。防御してみろ!」
「はああ」
「なんだその溜息は?」
「いえ、人に向かって魔法を放っては駄目ですよと言ってもやるんですよね」
諦め気味にレイナはニコラに確認する。
「まあ、訓練だからな」
その後、ニコラの魔法に対処するレイナの叫び声が荒野に響いたのは言うまでもない。
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