第57話 魔法は安全な場所で使うべきですね
「ところで聖魔法って何ですか?」
「はあ!?」
強力な魔法を使う為の専用訓練場があるので、そこに移動する途中でレイナはニコラに質問してみた。
ニコラはそんな事も知らないのかと残念な子を見る様な目でレイナを見る。
「す、すみません」
そんなニコラの心の声が聞こえた気がしてレイナは、つい謝ってしまう。
「ふん、聖魔法はお前も使っているだろ? 魔力を聖なる力に変換して現象を起こす魔法だ」
「はあ」
何だか分かりにくいなとレイナは曖昧な返事を返す。
「簡単に言うと聖魔法の中の回復魔法である【ヒール】を使っているって事だ」
「えーと、つまり【ヒール】にも色々あるって事ですか?」
「ああ、水や風属性の【ヒール】もあるからな。ただ聖属性の【ヒール】が一番威力があると言われている」
「その割に私の魔法は威力が弱かったのですが……」
「それはお前の魔力循環と制御は酷かったからな。あれじゃあどんな属性だろうが関係ない」
「で、ですよね」
レイナにも自覚はあった。
だからこそ、ここに来てからニコラの指導の下、魔力循環の訓練をやり続けた。
もし何も知らず自分でやっていたら殆ど伸びなかったはずだ。
ニコラという師匠がいたからこそレイナは強くなれたと言っても過言ではない。
「そういう事で先ずは【キュア】と【ホーリーレイ】を覚えて貰う」
「説明をお願いしても?」
もはや悪びれた様子を見せずレイナは笑顔でニコラに説明を乞う。
分からない事は今の内に聞いておかないと聞きにくくなるからとレイナは恥を忍んでお願いする。
ニコラも嫌味は言ってこない。
「【キュア】は主に解毒だな。【ホーリーレイ】は聖魔法の代表的な攻撃魔法で光のレーザーを撃ち出す」
解毒は【拒絶と吸収】でも代用出来そうだが、魔法として持っていれば使い勝手が良いかもしれないとレイナはニコラが勧めるのに納得する。
【ホーリーレイ】はレイナにとって初めての攻撃魔法だ。
今までは近接に関する事しか訓練してこなかったので、レイナの気持ちも高揚してくる。
「ようこそニコラ様! 準備は出来ております。三番にお入りください」
しばらく歩き訓練場へ到着するとレイナ達は門番の兵士に声を掛けられる。
兵士の言い方からすると事前に話が来ていたのだろう。
言われた通りレイナ達は三番の部屋に入り進むと、見えない膜を通り抜けたような違和感を感じる。
「ここが訓練場だ」
「す、凄い!」
今までいた場所とは違い見渡す限りの荒野が広がっている。
「こんな場所が王宮にあったのですね」
「ああ、ここは昔に魔法訓練用に作られたらしい」
「そうなんですね」
「ここなら強力な魔法を放っても問題ない」
訓練場は広く岩肌がごつごつしており、焦げた後や溶けた部分、凹んだ箇所があり魔法を撃ち込んだ様子が伺える。
「先ずは俺がやるので見ていろ」
どんな強力な魔法を撃ち込むのかと思いレイナはニコラから離れる。
「【キュア】!」
「ええっ!?」
放たれた魔法は解毒魔法。
そういえばニコラは言っていたなとレイナは思い出すが、この広い荒野でやるなら攻撃魔法であろうとレイナは思い込んでいた。
それ故、驚きの声を漏らす。
「ん? しっかり見ていたのか?」
「は、はい。詠唱はされないのですね」
ニコラに怒られそうなのでレイナは別の部分に驚いた事をアピールした。
この世界の魔法は詠唱と魔法名を言う事が発動の条件であると一般的に言われている。
詠唱の破棄は威力を落とすだけでなく無効となる場合があるので技術が必要で高度だ。
それを何事も無く出来るニコラはやはり優秀なのだろう。
「詠唱は現象を理解して再現出来れば必要ない。戦闘で長々と唱えていて良い事など一つも無いからな」
確かにとレイナも思う。
「お前も【ヒール】は詠唱していないだろ?」
「はい」
レイナの場合は魔法技術が低かったので詠唱しようがしまいが威力が変わらなかったので、だったら詠唱しない方が楽だと思いレイナはそうしていた。
偶然詠唱無しにしていただけで威力は悲惨なものだったのだが。
魔法の訓練は続く。
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