第50話 帰宅ですね

 レイナとクリスティーナはそれから色々な話をした。

 その中で第二王子であるバレンの話も出る。

 イーサンも言っていたがクリスティーナが好きなのはバレンという事が彼女の口から聞けたので本当だということをレイナは知った。


 バレンの事を話すクリスティーナは可愛らしく、いつもは隙のない印象である彼女が顔を赤くして話す姿は新鮮で、レイナは思わず抱きしめたくなる。

 本当にバレンの事が好きなんだなとレイナは上手くいって欲しいと願う。


 レイナは数日間、アルティアーク家に泊まる事になった。

 倒れたという事もあるが、シールズの体調が気になったというのが一番の理由だ。

 定期的に鑑定をかけ問題がない事をレイナは確認する。


 イーサンと護衛のラウルは一足先に王宮に戻った。

 今回の主犯者を見つける事と公務が理由だ。

 第一王子であるイーサンのやる事は多い。

 イーサンとしてはレイナの側にいたかったのだが、そうも言っておられず泣く泣く戻ったというのが正直なところだ。


 しかしレイナの体調がもっと悪ければ公務を放り出してでも側にいた可能性が高い。

 今回もラウルがなだめてようやく嫌々ながらも承諾したので、仕える周りの者達は大変だ。


 シールズの容体も安定したという事でレイナも王宮へ帰る事になった。

 解呪による影響はない様だ。


 護衛付きの馬車が迎えに来たのでレイナはそれに乗っていく。

 アルティアーク公爵も見送りに来ており、感謝の言葉といつでも遊びに来てくれ構わないという約束をレイナは得る。

 

「レイナまた茶色に戻したのね?」

「ええ。やっぱり銀髪は目立ち過ぎるので。でも茶色も結構気に入っているんですよ」


 認識阻害のブレスレットは壊れてしまったので、レイナは兄から貰ったネックレスで変装している。

 これはイーサンから頼まれた影がレイナに送り届けた物だ。


 これを渡された時のレイナは大層驚いた。

 レイナが部屋にいると突然声を掛けられ振り向くも誰の姿も見えない。

 

「だ、誰?」


 気配と声はするがレイナは姿を捉えられない。


「イーサン様の影でございます」


 すると手品の様にテーブルにケースが現れる。

 突然の事に驚くもレイナは問う。


「これは何ですか?」

「イーサン様が修理しましたネックレスでごさいます」

「ああ、さすがイーサンね!」


 ブレスレットが壊れたのでレイナが困ると思いイーサンが用意した。

 元々は兄から貰ったネックレスであり魔法の訓練の際にニコラに破壊された物だ。

 以前にレイナはイーサンに修理を依頼していた。

 それを届けてくれたのだろう。

 

 これを素直に受け取って良いものかと、レイナは差し出した手を止める。

 見方を変えれば姿を見せない怪しい人物の言うことを信じて、怪しい箱を開けるだろうか?

 普通なら躊躇うのも当然でありレイナも逡巡する。

 しかしレイナは箱を取る事にした。


 ここが公爵家であり影と名乗った人物がイーサンとネックレスの事を知っていた事実がレイナに判断させる。

 決定的だったのは自分を騙しても得する人間などいないだろうという思いがレイナに行動させた。


 この考えは今や微妙になっている事を本人は認識していない。

 見目麗しい事もそうだが、チート級の能力を有している事が世間に認知されれば、争奪戦が繰り広げられるのは間違いない。

 婚姻を結ぶか誘拐をしてでも自分のものにしたいと考える人間はいるだろう。


 ただその事をレイナが気がつくのはまだ少し先の話になる。 

 

「では、クリス様お邪魔しました」

「ええ、今回は本当にありがとう。今度は遊びにいらしてくださいねレイナ。わたくしも王宮に顔を出すわ」

「はい。待っています」


 最後にシールズがレイナに話しかける。


「レイナさん今回はありがとうございました」

「いえ、元気になられて良かったです。もう大丈夫そうですね」

「はい。【白銀の聖女】様のお陰でございます」

「は、【白銀の聖女】って何ですか!」


 驚いたレイナだったが勝手にレイナに二つ名を付けた張本人は何も言わず恭しく頭を下るのみだ。


 レイナはアルティアークの人々に見送られ王宮へと戻る。

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