第18話 パンパンですね

「それで休みの日に畑作業をしていたのか?」

「は……い。土を……改善すれば……いいかと……思いまして……」


 何でレイナがこんなに途切れ途切れ話をしているかと言うと、無理な態勢をしているからだ。

 ニコラの指示で中腰で手を前に出して魔力循環をしている。

 足腰と魔力の操作を鍛える為らしい。


「ほら、腰が浮いてきたぞ」

「す、すみません」


 これは地味にきつい。

 しかもメイド服でやっているから周りから見たら変な人間だ。

 レイナは足と手がプルプルしてくる。


 ニコラは庭にテーブルを持ち出し書類と格闘している。

 庭でやるなんて機密保持とかは、どうなっているのだろうレイナは心配してしまう。

 王家の子息ともなると、やることが色々とあるらしい。

 部屋でやった方が効率がいいはずなのに、レイナの為に訓練に付き合ってくれている様だ。

 だからしっかりと修練をしないと失礼になってしまうと、何とか頑張って腰を落とし耐えるレイナ。


「よし、少し休憩するか」


 私はその場に膝と手を付く。


「はあ、はあ……今お茶を……ご用意……いたします」

「ああ、休んでからでいいぞ」


 息が切れたレイナではあるが、何とか踏ん張りお茶の準備をする。

 メイドですからねとレイナは自分に言い聞かせた。


「ニコラ様も魔力循環の修行はされたのですか?」


 疑問に思いレイナは聞いてみる。


「ん? ああ、修行というかやってみたら普通に出来た。特に苦労はしていないな」

「そ、そうですか」


 流石は、魔法の天才少年。

 レイナがこんなにも苦労しているのにサラッと出来てしまった様だ。

 

(ぜ、全然悔しくなんかないわ)


 そのうち私にも出来るはずとレイナは自分を鼓舞する。


 すると少し離れた場所で手を振っている人物がいた。

 昨日の庭師だ。


「こ、こんにちは。ニコラ様、レイナちゃん」

「こんにちは、慌ててどうかされたのですか?」

「それが昨日レイナちゃんが手入れしていた作物が凄い事になってね」


(凄い事? 何それ?)


 レイナは変な反応をしてしまう。


「ニコラ様、少し見に行ってもよろしいでしょうか?」

「ああ、構わない。俺も行こう」


 ニコラを伴って畑に到着するとそれが目に入った。

 凄い、確かに凄いレイナは庭師の話を理解する。


 ぱんぱんに実を付けたそれは畑を覆いつくす程の発育。

 昨日とは別物であり周りと同じ植物と思えない。

 

「これってこんなに大きくなるものなのですか?」


 異世界の野菜ならこれぐらいあるかもしれないとレイナは確認する。


「いえ、私もこの大きさは初めてみましたな」


 庭師も初めて見た様子。

 手入れをした物だけでなく、他の作物も昨日より大きくなっている。

 周りにも影響したってこと?

 レイナは訝しげに作物を見つめる。


「土を換えただけでは、こんな風にならないだろう。何をしたんだ?」


 ニコラがレイナに確認してくる。

 ニコラでも原因が思い当らないらしい。


「ええっとですね、森の土の栄養素を取り出して与えたみたいな感じです」

「栄養素だけを? 僅かに魔力残渣が見えるがどうやってやったんだ?」


 ニコラなら【拒絶と吸収】の能力を話してもいいような気もするが、どうだろう。

 でも先にイーサンに話した方がいいかな?

 レイナが悩んでいるとニコラは言う。


「言いたくないのなら別に構わない。しかし凄いな。俺でもこんな事は出来ないぞ」

「ニコラ様、魔法で植物を成長させる事は無理なのでしょうか?」

「ああ、俺は聞いたことが無いし、やった事も無い」

「そうなのですね……」


 ニコラ様の魔法の腕なら出来そうな気もするのだけれども。


 レイナは自分の能力は凄いのかもしれないと思い始める。

 吸収した栄養塊は薄めて使った方がいいと言うことか。

 これだけ大きくなるって事は、効果が強すぎたのだろう。


 吸収された物は使用すると効果が強くなる。

 これが正解だとレイナは思う。


「これ、食べても大丈夫でしょうか?」

「さあな。自分の能力で作ったなら大丈夫じゃないか」


(むっ、適当に答えましたね、ニコラ様)


 私には分かりますよとレイナはニコラの発言から感じ取る。

 でも食べなければ平気なのか分からない。

 とりあえずレイナは表面を拭いてみる。


(うーん、女は度胸!)


 レイナは作物にかぶりつく。


「あっ!」


 ニコラはレイナが本当に食べるとは思ってはいなかった様子で慌てた素振りを見せる。

 こんな怪しい物を口にするなど気が引けるのが普通だ。

 レイナはあっさりと食べてしまった。

 ニコラが驚くのも無理はない。


「あ、あまーい!」


 何これ凄く美味しい!

 酸味もあるけれど甘くてジューシー。

 凄く美味しい等々。


 レイナの感想からも分かる様に、この作物は食べても問題ない。


 ちなみにこの作物はトマヤと言うらしい。

 トマトではなくトマヤだ。

 赤い見た目も酸味のある味もトマトに似ている。

 現代で言うトマトだろうがこの世界ではトマヤだ。


「ごくっ!?」


 二人共恐る恐るトマヤにかぶりつく。


「ん!? 美味いな」

「美味しいですな!」


 ですよね!

 王族の人間が畑から直接食べるなんてどうかと思う。

 しかしニコラの普段は見られない子供らしい笑顔と態度にレイナは、ほっこりしてしまう。

 いつもは大人びているからこんなギャップが愛しい。

 レイナはそんな事を考えていた。


「まあ改良は必要だろうけど、これなら王族の食卓にあげてもいいかもしれないな」

「そうですね。このままでは食べにくいですし……」


 大きすぎるし料理に使うには濃厚で甘過ぎる。

 調理用とデザート用とか分けて作るのもいいかもしれない。

 レイナは調整できないか考えを巡らす。

 

「おじさん、しばらく畑をお借りしてもいいですか?」

「ああ、どんどん使ってくれて構わないよ」

「ありがとうございます」


 レイナは色々と試す事にした。

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