第13話 人に向けて魔法は撃ってはダメですよね

「ふん、いいだろう。次のステップに進むか」


 数日経った頃、やっとニコラのお許しが出た。

 次の工程にいけるみたいだとレイナは喜ぶ。


「まあ、少しはマシになったか。じゃあこれを見てろ」


 ニコラは人差し指を突き出し岩に向かって放つ。

 放たれた雷撃が岩を穿つ。


 魔力循環が見えない程早い。

 惚れ惚れする様な操作技術だとレイナは思う。

 流石は魔法の天才と言われている人物。

 そんな人が自分の魔法の師匠になってくれた事にレイナは感謝する。

 

「今のは雷属性の【ライトニング】って言われる俺のオリジナル魔法だ。これを今からお前に向かって放つ」

「えっ!」

 

(はい? この人は何言っているんでしょうか?)


 いや、言っていることは分かったのだが、意味が分からないとレイナは困惑する。

 

「わ、私に魔法を?」

「もちろん威力と速度は落とす。魔力循環で魔力を集めてガードしてみろ」

「えっ、えっ……ほ、本気ですか!」


 岩に穴が空く様な魔法を人に放つなんて事があるのだろうか?

 レイナがそんな考えをしている間に、ニコラはレイナに狙いを定める。

 冗談ぽい素振りはない。


「行くぞ!」

「ちょ、ちょっと待って……」


 バシュ! 放たれた雷撃がレイナの体に当たる。


「きゃっ!」


 ん? あれ? 少しピリッとしたけれど痛くはない。

 レイナは雷撃が当たったところを見ながら不思議に思う。


「以前のお前なら体に穴が空いていただろうな。魔力を操作してガード出来たって事だ」


(いやいやそんなもの、人に向かって放ってはいけないものでしょ!)


 心の中でレイナは叫び声を上げる。

 声に出さず我慢したが文句は言いたい。

 レイナは抑えきれず発言する。


「い、いきなり酷いです、ニコラ様!」

「何だ? ガード出来たじゃないか」


 ニコラは事も無げに言う。


「たまたまですよ!」


 レイナの心の叫びは声となる。

 先程、ニコラが師匠になってくれた事を感謝した自分を呪いたいとレイナは後悔した。


「じゃあ今度は当てるところを言ってやる。魔力を集中する感じで守ってみろ。左のもも!」


 ニコラは人差し指をレイナに向ける。


「ひぃ!」


 左のももで雷撃が弾ける。

 レイナは雷撃が見えている訳ではない。

 ニコラが言った場所に魔力を集めているだけだ。


「安心しろ。俺は回復系も得意だ」

「な、何も安心出来ないですよ!?」


 レイナは切実に訴えるがニコラはお構いなしだ。

 次々と雷撃を打ち込んでくる。

 

「ほら次行くぞ。左肩!」

「きゃっ!」


 何とか間に合いガードするレイナ。

 しかし肩に雷撃が走った瞬間ネックレスからボンっとした音と煙が出る。


「えっ? ……あっ!」


 レイナの銀色の髪が光に映えた。

 ネックレスは雷撃により破壊されてしまった。


「ああっ……」


 ネックレスの認識阻害が機能しなくなってしまった。

 銀髪と赤い瞳があらわになる。


(ど、ど、どうしよう)


 レイナは頭を押さえて、その場にうずくまる。

 そんな事で周りから隠せる訳も無いのだが、レイナとしてはそうするしかなかった。


「お前その髪と瞳……隠したかったのか?」

「えっ? は、はい……」


 驚いたのではなくてニコラは意外そうな顔をしている。

 ニコラは初めから気付いていたって事なのだろうかとレイナは不思議に思う。


 その時ふわっと何かがレイナにかけられる。


「えっ?」

「これで他の人間からは見えないだろう。大丈夫か?」

「あ、ありがとうございます」


 ニコラが着ていた上着をレイナに掛けた。

 雷撃をなんの躊躇も無く自分に打ち込んできた人物とは思えないニコラの優しい行為にレイナは戸惑う。

 一瞬、同一人物なのだろうかとレイナは疑ってしまう。


「で、でも、少し……小さいです」


 だから照れ隠しでそんな事をレイナは言ってしまう。


「はあ? ちゃんと隠れているだろ?」


 ニコラは何言ってんだこいつみたいな表情をレイナに向ける。


「はい……そうですね。すみません」


 レイナも大人げなかったかなと反省した。

 実際に銀髪は周りからは隠せている。


「この事は兄上は知っているのか?」

「はい。イーサン様とラウルさんはご存じです」

「そうか。とりあえずそれをかぶっていろ。おい、いるか?」


 ニコラはレイナのとは別の場所に声を掛ける。


「はっ、こちらに控えております」


 声はするが姿がみえない人物が答える。

 レイナは不思議に思い周りをみるが誰もいない。


「この事を兄上に報告してくれ」

「御意!」


 スッと気配が消えた気がした。


「な、なんですか、今の声は」


 余りの怪現象にレイナはニコラに答えを求める。


「ああ、俺の影だ。まあ王家に仕えている者だから信頼は出来る。お前の秘密は守られる。とりあえず部屋に戻るぞ」

「影……ですか。分かりました」


 そんな人達がいるのだなと見えない人物の能力にレイナは感心する。

 外での修行は中断した。

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