第16話 もふもふパラダイス再び!

 

 ◇◇◇


「カミール様、アデル様、ティアラ様。ようこそおいでくださいました」


 優しく微笑むのは孤児院の経営を任されている院長先生だ。院長先生はとても優しいうさぎ獣人の女性で、もうかなり高齢ではあるが、長い耳がとてもキュートな見た目をしている。


 長年孤児となった子ども達を保護する活動に尽力していており、王族の信頼も厚い。教会には所属していないが、その実績を買われ、今回院長として孤児院の経営に携わっている。


 ――――魔法の練習に夢中になってお勉強をさぼり、アンナにがっつり怒られた翌日。カミールとアデルのとりなしによってなんとか許して貰えたティアラは、三人で念願の孤児院にやってきていた。


「院長、皆に変わりはないかな?」


「はい。皆、健やかに過ごしております。これもみな、王族の皆様のご支援があってのことです」


「そんなに畏まらなくていいよ。アリシア王国の国民は皆家族だ。家族は助け合うものだからね」


 ニッコリ微笑むカミールをみて院長先生がポッと顔を染める。


「皆、なかなかこれなくてごめんね?」


 ティアラが子供たちに話しかけると、子どもたちが嬉しそうに駆け寄ってきた。


「聖女様!いらっしゃい!」


「聖女様にまた会えて嬉しいです!」


「聖女様に怪我を治して頂いたお陰ですっかり元気になりました!」


 年齢の大きな子ども達が口々に感謝を述べてくれるが、なぜか皆口を揃えて『聖女様』と呼びかけてくる。


「おうじょさまー!いっしょに、あそんでー」


「おうじょさま!おうじょさまだっ!」


 小さい子ども達が駆け寄ってくると、


「こらっ?違うだろう?王女様は聖女様だから、聖女様とお呼びしたほうがいいと、シスター達から教えて貰っただろう?」


 と、たしなめられている。


「ん?私は聖女様じゃないよ?」


 ティアラが首を傾げると、


「いいえ!聖女様です!」


「僕たちの怪我を治してくれました!」


 と言って聞いてくれない。ティアラが困っていると、


「院長、これはどうしたことかな?」


 カミールが少し目つきを鋭くして院長に視線を投げる。


「実は、ティアラ王女の回復魔法で元気になった年配のシスターが、ティアラ王女を聖女に認定するべきだと申しておりまして」


 院長も困ったように俯いている。


「『聖女』は教会で認定された特別な人物に贈られる称号だ。ティアラは聖女ではない。以後、使わないようにしてくれるかな?」


 カミールがシスター達に呼びかけるが、納得しない様子である。


「ですがっ!姫様は素晴らしい回復魔法の遣い手でいらっしゃいます」


「姫様以上に『聖女様』に相応しい方などおられないでしょう!」


(うーん、前世も『聖女』呼びされてたことあるけど、距離を置かれちゃうと寂しいなぁ)


「あのね、私たちは家族なんだよ!だから、私のことは、『聖女様』じゃなくて、ティアラって名前で呼んでくれると嬉しいな!」


 ティアラがそう言うと、皆一様に目を丸くする。


「えっ?聖女様が家族?」


「王族の方なのに?」


「僕たちと家族なの?」


「ああ、そうだ」


 そう言うと、アデルは小さな子どもたちを順番に抱え上げていく。


「アリシア王国では、この国に暮らすものは皆家族で、協力しあって生きていくという考え方があるんだ。だからみんな、『アリシアの子ども達』なのさ」


 カミールも優しく頭を撫でながら話しかけている。


「君たちも、アリシア王国の、大切な子ども達だよ。ぼく達は家族として一緒に生きていこう」


「僕たちにも家族ができたの?」


「私にも?」


「うん!私たちみーんな、家族なんだよ!みんな大好きっ!」


 ティアラが次々に抱きしめると子ども達も嬉しそうに抱きしめ返してくれる。左右に揺れるもふもふが気持ちよさそうでつい尻尾を触ってしまうと、


「ティアラ様!」


 比較的大きな男の子たちは真っ赤になって離れてしまった。小さな子ども達はピコピコと耳を動かしつつ、


「ティアラ様くすぐったいよぉー」


 と笑っている。可愛い。めちゃくちゃ可愛い!ティアラは心ゆくまでもふもふを堪能していた。


「はぁ、耳も尻尾も、もふもふしてて可愛い……」


「ティアラは子ども達とすっかり仲良くなったようだな」


 クスクスと笑いながら子ども達とじゃれあうティアラをカミールとアデルが優しい目で見守る。


「それで、申し上げにくいのですが……。実は、大神官様がティアラ様に興味を持たれているようなのです」


「大神官様が?」


「はい。実は先日、孤児院の視察にいらっしゃったとき、子ども達からティアラ様のお話を聞いてぜひ、お会いしたいと」


「そうか……」


「いずれ、正式に謁見の申し込みがあるかもしれません」


「わかった。院長、知らせてくれてありがとう。また、何かあったら報告してくれないか?」


「はい。カミール様。ティアラ様は、とても、優しいお方ですね」


 院長先生は獣人の子ども達と戯れるティアラを優しい眼差しで見守っていた。


「ああ、自慢の妹だよ」


 ◇◇◇


「今日はみんなにプレゼントを持ってきたの!」


 ティアラが綺麗な袋に入れられた種を差し出すと、子ども達は不思議そうに顔を傾げた。


「植物の種ですか?」


「うん!色々な植物の種を一杯持ってきたから、みんなで育ててみない?」


「ぼくそだてるー!」


「わたしもお手伝いできる!」


「僕は畑作りが得意です」


 子ども達が口々に賛成してくれるのでティアラも嬉しくなってしまう。


「あの、でも、せい……ティアラ様。実はまだ、花壇や畑を作っていないのです」


 思わず聖女様、と呼びかけようとしてカミールとアデルの視線に一瞬たじろいだシスター達だったが、申し訳無さそうに俯いている。


「申し訳ありません。なるべく、早く整えたいとは思っているのですが、何分男手がないもので、思うように進んでおらず……」


 院長先生も困ったように頬に手を当て、首を傾げている。


「ああ、それはすまなかったな。こちらの落ち度だ。すぐに作業できるように手配しよう」


 とカミールが言うと、


「いや、今やったほうが早いだろう。俺に任せてくれ。」


アデルが自信満々に名乗りをあげた。


「いいのか、アデル?」


「ああ、なんてことないさ。新しいゴーレムの力も試してみたいしな」


「そうだな。じゃあ今から畑作りといくか」


 こうして孤児院での畑作りが始まった。

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