第9話 ティアラの決意


 しつこく抱き締めてくるアデルの腕から逃れ、座席にちょこんと腰掛けるとティアラは小さくため息をついた。


(もしかしたら、と思ったんだけど、城の外に出てもフィリップの気配を感じなかったな……)

 

 城の周りには幾重にも結界が施され、強力な阻害魔法もかけられている。そのため、弱い魔力しか持っていない今のティアラではフィリップの魔力を感じることができないのだと思っていた。

しかし、孤児院へ向かう道や街に向かう道でもフィリップの気配を感じることができなかったのだ。


(もしかしたらこの国から離れているのかも。私が魔力を辿れないほど遠くにいるのかも)


 小さな焦りが生まれてくる。例えティアラの魔力が弱くても、国内にいるのならフィリップの方からティアラの魔力を感じて会いに来てくれるのではないか。そんな期待もしていたのだ。


(フィリップ、あなたはいまどこにいるの……)


 ふと窓の外に目を留めると、ちょうど昼時の街は賑やかな活気に溢れていた。多くの人が行き交い、他国の衣装を纏った旅人らしきものや買い物を楽しむ親子連れも多い。


 道の両脇には、フルーツを売る店、肉を売る店、武器や防具を売る店など様々な店がずらりと立ち並んでおり、多くの客で賑わっていた。色とりどりの花が並ぶ花屋の隣にはお洒落なカフェがあり、お茶とスイーツを楽しむ若いカップルたちの姿がみえる。



 比較的小さな店が立ち並ぶ街の中、一際存在感を放つひとつの大きな建物に目が止まる。


「アデルお兄様、あれは?」


「ああ、あれは冒険者ギルドの建物だ。冒険者たちはみな冒険者ギルドに加入していて国を跨いで活動している。この国でも冒険者を目指す者は多くいるぞ。実力さえあれば、身分や人種に関係なく力をつけることができる」


「冒険者ギルド……。アデルお兄様、冒険者には何歳からなれるの?」


「ん?ティアラは冒険者に興味があるのか?冒険者ギルドには10歳から登録することができるぞ」


「えっ!?そんなに小さいうちから冒険者になれるの?」


「もちろん最初は薬草摘みとか、荷物持ちとか、簡単な仕事をして徐々にランクをあげていくんだ。ただし、魔力の強いものや才能があるものは、最初から高ランクに認定されることもある」


「そっか、それなら危なくないね。どんな人が冒険者になれるのかなぁ?」



「実は俺も兄貴も10歳から冒険者ギルドに登録している。国を越えた活動をするときに、冒険者ギルドを通じてやったほうが便利なこともあるからな。ギルドは独自の組織として国の干渉を受けない。王族と言えど、冒険者ギルドの中ではただの冒険者だ。実力だけが評価される。俺と兄貴は最初から魔力が高かったから、Cランクから始めて今Sランクだ」


「えっ?お兄様たちが冒険者になってたなんて、知らなかった……ランクってどうやって決まるの?」


「冒険者のランクは上からS、A、B、C、D、Eとあって、Cランク越えてから始めて一人前の冒険者として認められる感じかな」



「お兄様たちすごい!じゃあ私も10歳になったら冒険者ギルドに登録できる?」


「えっ?ティアラが?う、うう~ん、どうだろうなぁ~。正直登録するだけなら、大丈夫かもしれないが、実際活動するとなると……姉さんたちは登録してなかったしなぁ」


「女の子が登録するのは難しいの?」


「そういうわけでもないんだが……」


(カミールがなんていうかだよなぁ)


 アデルは兄の顔を思い浮かべて思わず苦笑いを浮かべる。ティアラを溺愛している兄は、ときとして汚れ仕事や凄惨な現場に遭遇することもある冒険者になることに、難色を示すのではないだろうか。


 しょんぼりしたティアラの頭を撫でると、


「まあ、あれだ。ティアラがすげー強くなったら反対されないんじゃないか?」


「そっか!そうだよね!私、冒険者になれるように頑張る!」


「は、ははっ、うん、まぁ、頑張れ……」


(まぁ、なるようになるしか、ならないよなぁ。二年後に気が変わってるかもしれないしな)


アデルは、取りあえず考えるのをやめた。


―――二年後、そのことを大きく後悔することになるとは知らないで。

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