第5話 孤児院の秘密
◇◇◇
「ゆ、誘拐!?この子たちみんな?」
「ああ。獣人は身体能力の高さから、他国では戦闘奴隷として人気があるからな。ここ最近大国同士の小競り合いが続いている。このままでは戦争に発展するかもしれない。いくつかの国では手段を選ばず国内外から積極的に獣人を集めていると聞く」
アデルがギュッと両手を握りしめたまま辛そうに顔をゆがめる。
「戦争の際獣人は喉から手が出るほど欲しい人材ですからね。だからって子どもを戦争の道具にしようだなんて……」
若い騎士の一人がやるせなさそうにつぶやく。
「子どものうちから兵士に仕立て上げて国に対する忠誠心を植え付けるんだと。全く、狂ってるぜ」
若い騎士に答えるように、今度は体の大きな騎士が怒りをにじませている。彼自身も熊の獣人であり、同じ獣人の仲間である子供たちへの残虐な仕打ちに怒りを隠せないでいた。アリシア王国の国民にとって獣人は対等な隣人であり、子どもたちはかけがえのない宝だ。子どもたちから未来を奪う卑劣な事件に誰もが憤り、胸を痛めていた。
「他国で子どもたちを攫っていた奴隷商人どもが、今度は我が国に目を付けたらしい。怪しい商船が停泊していると知らせを受けてすぐに調査で乗りこんだら、船倉でこの子たちを発見したんだ」
「そんな……」
みると顔に殴られたような跡がある子や、腕や足に包帯を巻いている子も多い。長い間拘束されていたのだろうか……どの子も手首や足首に痛々しい傷跡が残っている。
「我が国では獣人差別はないし、奴隷制度も認められていない。人身売買は重罪だ。奴隷商人たちにはしかるべき厳罰を与える。ただ、この子たちは他国で捕まった子供たちだ。親を亡くし、スラムで暮らしていたような子や、親を殺され孤児になった子もいるらしい。国に帰ればまたどんな仕打ちを受けるかわからない。行き場を失った獣人の子供たちのためにカミールが作ったのがこの孤児院なんだ」
―――獣人は人ではない、だから、何をしても構わない―――
そう、確かにそう言う人達もいた。
――――かつての祖国、アリステア王国の王族達のように。
アリステア王国では獣人達は使い捨ての道具のような酷い扱いを受けていた。だから作ったのだ、みんなが笑顔でいられる場所を。でもその考えは、世界中に広がることはなかったようだ。
(500年たっても、人の心は変わらないのかな……私がこの国に来たことで、祖国は変わることができなかったのかもしれない。あのとき私が逃げずに戦っていれば、何か変えられたかもしれないのに……私は、王になることもできたのに……)
涙が見えないように慌ててうつむいたが、こらえきれずに涙がこぼれる。
「大丈夫?」
そのとき小さな手がティアラの手にそっと触れた。
「お姉ちゃんもどこか痛いの?苦しいの?寂しいなら、僕、手を握っててあげようか?」
みると先ほど逃げてしまった獣人の男の子と一緒に、何人かの子どもたちが心配そうな顔で駆け寄ってきて、ティアラの顔をのぞき込んでいる。
(この子たちの心はこんなにも温かく優しいのに......)
「ごめんなさい、私、今まで何もできなくて。本当に、本当にごめんなさい」
ティアラは思わず大声で泣き出してしまうのだった。
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