51.

「ん……」


 ユウトは無言で「こっちに来い」とジェスチャーをする。慌てふためくサユリさん。可愛らしい。これが世界のギャップなのだろうか。


「もう、いきなりなんて心の準備が……!」


 背後から冷やかしの声を浴びながら、こちらへ駆け寄ってくるサユリさん。どうやらチームメイトは何か少し勘違いしているらしい……。


「元気そうだな」

「……もう!会うなら連絡の一つくらい入れてよね、こんな格好じゃ恥ずかしいじゃない……」


 サユリは胸元を両手で抱えるようにして隠し、赤面しながら抗議した。僕はユウトから連絡を貰ったけど……サユリにはしてなかったんだ……。


「ガチの運動部員がそれを言うか。何を今更……お得意のeyeとやらでホログラム服でも着ればいいじゃないか」

「貴方は携帯しか持っていないでしょー!使用者同士でしかそれは出来ません〜!」


 サユリをおちょくるのもそうだが、ユウトは夢世界に比べて現実世界ではよく喋る。何にしろ微笑ましい光景だった。


「でぇ……今日は何の用よ」


 不満げに口をもごもごさせるサユリさん。

 ユウトは僕を見やると、素っ気なく話始めた。


「ちょっとコイツに鍛え方を教えようと思ってな。……誰かに似てチビだし」


 シンプルに罵倒された。事実だから抗議のしようがないのだけど。怖いし。


「あー、そうね。確かにあっちの世界だけじゃ不十分か。いやいや、私はこのままのアノちゃんが好みなんだけど」

「お前の趣味嗜好なんて知るか。生き残る為に最善を尽くすんだ。見るからに体力なさそうだが……自己評価は?」


 僕は項垂れながら答えた。


「多分、オンチ……」

「だとよ。どうする?」

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