50.
階段を下る。僕はそれでもあの出来事以来、寂しいと思った事は一度もなかった。友達を超えた大切な人達が僕の側にいてくれるのだから。
「……時間ぴったり。そんじゃまあ……行くか」
腕時計を見ながら背を預けて佇む一人の男子生徒。髪の毛はぐしゃぐしゃ。時折、寝ぼけ眼な瞳を垣間見せながら退屈そうに歩く。葉月優人。夢世界ではユウトと呼ばれている頼れる存在。
前方をかつかつ歩くユウト。その背中は意外と幼い。あちらの世界では服装もあってか、ひとまわり大きく見えたけど、やっぱり一つ歳が違うだけの同じ高校生らしい。
「サユリと合流する……とは言ってたけど、一体何処へ向かっているの。ユウト」
「じきに分かる」
ユウトは雰囲気からして……というか、サユリさんもそうだが物事を簡単には教えてくれない。奥手に越した事はないのだが。
ユウトは一階まで降りると、長い廊下を進んでやがて体育館の扉を開けた。中から運動部員の溌剌とした声が響いてくる。
「あれって……もしかして、サユリさん?」
長い棒を持ち、深呼吸を一つ。勢いよく走り斜めに進入し、棒の反発力を使って体を宙に浮かせた。汗が煌めき、美しいくびれが露わになる。特徴的な赤茶の髪を靡かせながら着地する一人の女子生徒。棒高跳び──まさかあれがサユリさん!?
「あれ?見覚えのある二人が……ってユウト!?それに、アノちゃんまで!」
あわわと顔を赤くしながらチームメイトの背後に隠れるサユリさん。頼れるお姉さんのイメージがあったので僕にとって、こういう仕草は珍しく写った。
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