39.
「サユリさん……僕達は一体どこに向かっているんでしょうか」
「ひみつ♡」
「……。えと……せめて目的ぐらいは……」
「ひみつ♡」
黄昏時の車内。サユリ、僕、ユウトの三人はバスの最後列で身を寄せながら、暫し揺られていた。全く急な話ではあるのだが、なんでも、姉さんの情報を入手する為にはとある"図書館"に向かわなければいけないらしい。
覚悟を決めた僅か数分後に、こうしてバスに揺られる事になるとは思わなかった。僕は二人に挟まれる形で着席しており、側から見れば連行される罪人のように映っただろう。サユリに具体的な場所を聞いてみるも、例の如くはぐらかされる。こうなると、頼みの綱は腕組みをして先程から終始無言のユウトという事になるのだが──
「……お前、どこ中だ?」
なんて、いきなり恐喝じみた事を聞いてくるユウト。僕は顔を引き攣らせてサユリに視線を戻した。
「ごめんね。ユウトは昔からこういう人なのよ。慎重っていうか、回りくどいっていうか。……それより失礼ね。アノちゃんは同じ高校生よ。一つ年下の後輩という点を除けば私達と何ら変わりないわ」
サユリは少し無気になった様子でユウトを注意した。それは世話焼く母親のように見えた。
「そうか……すまん。小さいから五つくらい年下だと思った」
ユウトは顎に手をやったまま呟いた。視線は車内前方を向いている。
ガーンッと頭の中で何かが崩れ落ちた気がした。年齢に見合わない小ささというのは自分でも重々承知している。先輩の二人と比べても身長が十センチくらい違う。でもこう……改めて誰かに言われると自分が思っている以上に致命的な弱点である気がしてきた……。
「
「えっ」
ユウトは予告も無しに握手を求めてきた。視線は逸らしたままだけど。
「……呼び名はユウトでいい。まあなんだ、改めて」
「よ、よろしく」
僕は戸惑いながらも有り難く少年の手を握った。ユウトは僕が思っていた以上にたくましい手をしていた。握力、感触がそう伝えている。
「クールなフリして実は結構、積極的なのよね〜ユウトは」
「……うるさい」
サユリは無愛想な彼をおちょくる。ユウトは少し恥ずかしそうに視線を逸らした。
「流れからして次は私の番だね。改めまして。私は
「……何かとな」
気に触るようにユウトが反応した。その様子を見てサユリは苦笑する。
「だからそうね。私達はクラスこそ違うけど、偶然にも同じ学校の学生ってわけ。どんな巡り合わせかしら」
その言葉を聞いて僕は驚き以上の安心感を覚えた。気を許せば一連の惨劇に感謝してしまいそうな程に。事件に巻き込まれるという悲劇こそあったが、僕は今こうして仲間と巡り会えた。これは運命だ。いや、必然だったのかもしれない。
「……よろしく」
僕は無意識に握手を求めていた。
「何だか照れちゃうなぁ。私とはもう何度もスキンシップしてるんだから、そうかしこまらなくていいよ」
サユリは苦笑している。窓際に視線を送る一瞬、悲しい顔ともとれない表情をしていた気がした。
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