8.三人の冒険者

37.

 ピンポーン。

 誰かが自宅のベルを鳴らしている。誰だ。

 ピンポーン。

 しつこいな。放っておいてくれ。僕には関係ない。

 あの出来事から既に二日が経過していた。僕は恐怖心を振り払うこと出来ず、サユリ達の忠告を無視して、現実世界の自宅に篭り続けていた。


『……アノ。いるんだろ。居たら返事をしてくれ』

「──ッ」


 聞き覚えのある声が響く。僕は思わずベッドから飛び起きた。あの少年の声だった。僕の自室は玄関近くにあるので訪問者の声がよく聞こえる。自宅の場所はサユリさんが教えたのだろう。

 申し訳ないが、できれば二人にはもう会いたくなかった。それでも二度も自分の窮地を救ってくれたのだ。門前払いするには、流石に気が引けた。

 せめてもの償いとして、ドア越しに返事だけしておく。


「……ごめん。いるよ。早乙女亜乃。あの世界ではアノって呼ばれてた」

『知ってる。俺の名前は葉月優人。夢の中ではユウトと呼ばれている。お前が襲われていた所をボウガンで撃ち抜いたのは俺だ』

 「ユ……ユウトくんっていうんだ。病院で怪物を倒してくれた時とか……本当に助けてくれてありがとう。それで……申し訳ないんだけど、僕にはもうあの世界で生きる資格なんか……」

『大事な話がある』


 僕の戯言たわごとには耳を貸さないとばかりに、少年は芯の通った声音で言う。


『君の家族に関わる話だ。中でもあねさんのな』

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