36.

「ア……ちゃん!アノちゃん!」

「……ん」

「……ごめん、ごめんね。私が一人にさせたばっかりに……」


 どれくらいの時間が経過したのだろうか。サユリに抱き留められながら、僕は目を覚ました。雨粒が感じられない。雨を避けた場所にいるようだ。


「また、助けてもらった……」


 僕は息を吹き返すように、弱々しく呟いた。

 サユリの背後には外套のフードを外した少年が腕を組んで佇んでいる。髪は少し茶を帯びた黒の癖毛。端正な顔立ちと、何処かを見据えるような眼差しがクールな印象を与える。病院で僕を救ってくれたあの少年だった。


「……く……ぅ」


 あまりの不甲斐なさに大粒の涙が流れる。


「アノちゃん……」


 サユリは憂いを帯びた声を漏らす。

 少年は僕とサユリの真横を通り過ぎると、雨に濡れる街を眺めた。そして言った。


「この時が来たのか」


 サユリは頷いて答える。


「……ええ。"三人揃った"のよ。ようやく」


 僕はその言葉の意味する事を知らない。知らなくてよかった。もうこの世界にはうんざりだ。

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