32.

 飽きずに降る雨を浴びながら細道を歩く。


【コルド少年の武器屋】を後にした僕とサユリは次の街に繋がっているという大通りを目指した。僕の腰には黒樫ダークオークのナイフ、サユリの背中にはホルダーに納められた数十本の矢がカランカランと軽い音を鳴らしていた。何に使うのかは知らない。


 これらの武器はあの禍々しい緑の塊と引き換えに入手したものである。この街では硬貨及び紙幣というものは存在せず、全ての取り引きに対して【物々交換】が行われている。物流は殆どが機能していないらしく、特に木材は希少価値が高いのだとか。幾ら価値がある苔といっても交換出来るのは精々、ナイフ一本と消耗品というわけである。これらの話はコルド少年から聞いた。


「しかし……この雨。いつ止むのかしら」


 困り顔でサユリが空を仰いだ。


 雨が降り止まないこの街は【深淵の水道】と呼ばれている。もっとも誰が命名したのか定かではないが。四六時中雨が降る影響で農作物が一切育たず、木を植えることが出来ない。そんな絶望的な環境を補完するように生えているのが、サユリが持参した苔である。この苔は運の良い事に超がつく程の万能素材であり、コルド少年が説明したように人々の衣食を支えるこの街、唯一の資源である。


 苔は盗賊による乱獲、人々の争奪の末に数が減少し、やがて入手出来なくなった。


 サユリの知る限りでは街を統制する王のような権力者はいないらしい。土地の拡大は無造作に行われ、その為に不恰好な建物が乱立し、少しでも住居スペースを広げようと壁が迫り出した家々が多く生まれたという。

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