31.
武器一つの売り上げだというのに、コルドはかなりオーバーなリアクションをしてみせた。僕が選んだのはハンドルが焦茶色の木であしらわれた、ごくごくシンプルなナイフ。これといって特徴の無いナイフではあるが、磨き上げられた刃といい、それなりにはしそうである。
「でもお金が……」
「大丈夫。安心して。私がとっておきのブツを持ってきたから♪」
サユリさんは決まり文句を放つと、不意に懐から得体の知れない物体を取り出して卓上に乗せた。
『ドベチャッ……!』
水気を帯びた毬藻のような緑色の物体。カビのような異臭を放っている。
「サユリさん……これは一体……?」
「この街の名産品よ。名前はしらん♪」
「知らんって……う」
僕は思わず鼻と口を覆った。塵を集めて固めたような激臭に耐えかねたのだ。僕は顔面蒼白になる。コルド少年も同じような反応をしていると思いきや……違った。
「こ……これは……!み……密猟だぁ!」
「ぶぅー違います。自家製でーす」
サユリは不満げに鼻を鳴らす。
「ありえない……こんな量!一体何処で……」
コルド少年は先程の気弱な態度とは打って変わって声高々に興奮している。その様子から見て、価値のある物だという事は確かなようだ。
「これは藻か何かですか……?」
僕は恐る恐る質問をする。
「藻というか多分、苔ね。超万能な」
「コケ……?」
目が点になる。苔に武器が買えるほどの価値が付くなんて聞いた事がない。
「知らないんですか!?その苔は衣服・染料・食料になる、ちょー便利な素材でこの街唯一の特産品なんですよ!」
コルド少年は息を切らしながらも、説明してくれた。
「それにですよッ!さんびゃ……」
雄弁に語りすぎたのか、はたまた舌を回し過ぎたのか、コルド少年は突然しゃっくりをし始めた。
「……く……ね………ご……」
「もーう。興奮し過ぎなんだってば……」
サユリは呆れ半分、彼の背中を摩りにいった。
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