28.

「げげっ……サユリちゃん……」


 怯えた声が店内に響く。その声の主は木のカウンター越しに身体を潜めていた。目元を僅かに覗かせて、こちらの様子を伺っている。


「久しぶりねコルド。元気にしてた?」

「……げ……元気ですよ。この上ないくらいに……」


 恐る恐る姿を現したのは小柄な少年だった。髪は緑がかっており、背は僕よりも低い。顔は童顔で大きな瞳が、尚一層幼さを感じさせた。


 店内には見渡す限りの武器が揃えられている。暗くじめじめとした細い路地裏にあったのは一軒の武器屋。店前たなさきに掲げられた看板には謎の言語と剣のシンボルが刻まれており、躊躇なくサユリはその店に入っていった。この店のオーナーは信じられない事に、このひ弱な少年であるらしく、サユリとは顔見知りとのこと。


「どう?アノちゃん。これが冒険心を掻き立てられる武器屋ってやつよ」


 サユリはさも自分の店であるかのように鼻高高と意気込んだ。その様子を見たオーナーのコルド少年は「うう……オレの店なのに」と呟く。


「武器……確かに凄いけど……」


 煉瓦調の壁面には装飾をあしらった斧や棍棒、槍や剣、弓に盾など多彩な武器種がまるで博物館の展示品を見るように掛けられていた。

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