26.
石畳にできる無数の水溜り。通りを歩く黒いローブの人影。相変わらずこの街には雨が降り続いている。
「どう?この大通り。何か思い出さない?」
濃緑のフードに身を包んだサユリが好奇心旺盛に問いかける。僕らは雨合羽代わりに、これを身に纏っているのだ。
頭上には空を覆い尽くさんばかりに迫り出した住宅の外壁が見える。僕はこの世界に迷いこんだあの日、ここで力尽きた。そして運良く同じ境遇である少女、サユリに助けられたのである。
「……そうだね。思い出すよ。もしもあの日、サユリさんがここを通らなかったら僕は今頃、死んでいたかもしれない。その上、ご馳走まで頂いて、感謝してもしきれません」
僕はまるで心の中に火を灯すような、穏やかな気持ちになりながらサユリに感謝した。
「あ……。なんか、予想と違う答えが返ってきちゃったなぁ……。お姉さん困惑」
サユリは冗談交じりに「あはは」と苦笑いしてみせた。
似ている。その表情が姉さんと。そうか。僕はサユリと姉さんを照らし合わせていたんだ。
♢♢♢
降り頻る雨の中、大通りを進んでいく。代わり映えのしない風景。それは何処とない不安を感じさせた。
「……複雑な気持ちがする」
僕はか細く呟いた。その光景を見るたび、脳裏にあの冷たい絶望が蘇ってくる。でも同時にどことない既視感がある。これはまさか──
「その顔、なにか気付いたみたいだね」
サユリは悪戯っぽく笑う。
「……うん。ちょっと自信ないかもだけど」
「答えてみそ」
「えーと。僕がさっき目覚めたのは見知らぬ人の家。それは現実世界の位置関係と同期しているから起こりうること。だとすると……この街は"月島の街"そのものだったりするのかな」
僕は俯きながら、けれども言葉一つ一つを繋いで丁寧に答えた。
「はい、大正解〜!段々、この世界の事がわかってきたみたいだね」
サユリはご名答!と、ばかりに指先を突き出す。既視感の正体。それは馴染みある月島の風景だったのだ。
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