7.夢の中へ

25.

「──ッ──ッ!──ッ──」

「ぐぁッ!」


 いつの日か聞いた怒号を浴びせられながら、華奢きゃしゃな身体は宙を舞い、石畳に落下した。頭上から鬼の形相を浮かべた老婆が「また、アンタか」とこちらを睨みつけている。


「だから、かって言ったのにぃ」


 サユリは不満そうな口調で地面に転がった僕を中腰で覗いた。


「無茶言わないで下さいよ……」


 僕は無惨むざんにも地面に転がっていた。


 何故このような状況になったのか。それは所謂いわゆるリスポーン地点というものが、この世界において現実に属したものになっていたからである。


 昨日の別れ際、サユリは「私の家に来ないか」と提案を持ちかけた。一見して、軽薄ともとれる発言にはれっきとした意図があったらしい。


 彼女によると、この夢の世界で出現する位置、つまりベッドから起き上がる位置はしているとの事だった。


 例えばこの世界の遠い場所、果てに移動したとする。こちらの世界にも眠気というタイムリミットがあるようで以前僕が食後に意識を失ったように、夢の世界で眠りにつく。そして現実世界の朝、ベッドで目覚める。


 現実世界の夜、また就寝してこの夢世界にアクセスする。すると、何が起こるか。答えは簡単だ。


 自宅の位置関係にあるこの"鬼婆の家"にリスポーンしてしまうのだ。それは僕が現実世界にある自宅のベッドで寝ている以上、絶対に変わる事はない。


 僕は肩に力を入れて、なんとか起き上がった。


「出来れば、その事実を最初に伝えて欲しかったです……」


「物事には順番ってものがあるのよ。私は明確な意図を抜きにして、アノちゃんとのお泊まり会、楽しみだったんだけどなぁ〜」


「ひぃ……」


 僕は顔を引き攣らせた。


 そう。この理不尽な状況を解決する唯一の方法。それは僕みたく不遇な場合に限ってだが、"自宅とは別の場所で就寝する"事によって回避出来るというものだった。


「まあ、気持ちを切り替えていきましょう。今日はここが一体どんな場所なのか、"街巡り"をしながら教えてあげる♪」

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