17.

「──〜──〜」


「あ!エストお婆ちゃん!」


 赤茶髪の彼女は甲高い声をあげた。


 お婆さんはぼんに土鍋を載せて現れた。あったかい煙がもくもくして食欲をそそる美味しそうな匂いが食卓を包み込み始める。


 少女曰く、お婆さんは『こんな物しかないけど、召し上がれ』と言っているらしい。


 お婆さんはテーブルの中心に土鍋を置いた。気になって中を覗いてみると、黄金色のスープに藻のようなものが浮いていた。


 少女は慣れた手つきで戸棚から食器を取り出すと、木のお玉で一皿ずつ丁寧によそった。それぞれ配り終えると、突然額に手をやって暫し沈黙した。


 見やれば上座に座るお婆さんも、額に片手を充てて祈るように瞳を閉じていた。


「──ほら、君も同じようにやってみて。これは"私達"の世界で言う"いただきます"だよ」


 少女は片目開きながら、お婆さんに聞こえないようささやき声で言う。


「こ……こうかな……」


 見よう見まねで僕もてのひらを額に押し当てた。


 熱がじんわりと広がっていく。体温が一つになるような感覚。


 これは儀式なのだろうか。宗教あるいは文化的な側面があるのかもしれない。


「──さてと、そろそろ頂きましょうか」


 少女は不意に手を下ろすと、目を見開いて食事の合図をした。

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