10.

 僕はすぐさま一階へ駆け降り、玄関をバッと勢いよく開けた。すると──


 視野に飛び込んできたのはやはり見渡す限りの煉瓦造りの家々。家の前にある筈の道路は石畳になっていた。そこにはローブに身を包んだ男や、馬車を引く者が横行している。


「こ……これは……」


 俗にいう"異世界転生"なのだと思った。でもどうやら違う気がする。


「幻覚……」


 口をついで出たのは謎の少年が通告した現象。目の前に広がる光景は信じ難い。けれどこれは幻覚作用のある薬物が見せている紛い物に過ぎないのだと、そう勝手に結論づけた。


 とはいえ、簡単に受け入れられるものではない。目も眩むような状況に立ち尽くしていると、不意に背後から怒号のような声が飛んできた。


「──ッ──ッ!──ッ──」


 僕は仰天して後ろを向くと、玄関近くの小窓から見知らぬ老婆が睨みつけていた。何で僕の家に見知らぬ人が……まさか、不法侵入者!?


 身体を強張らせながらも、意を決して話しかける。


「あ……あなたは一体誰ですか!」

「───?──────────!──……」


 老婆はどこの国とも知らない言語で言い返してくる。何を言っているのか、僕には理解出来なかった。

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