第223話 助っ人
ヒーズル王国であれば、疲れてしまうと私はどこでだって寝てしまう。広場のクローバーの上や砂地だろうと、なんにも気にしない。つい先日だって、動物の毛皮を着て岩の上で一泊したくらいだ。そんな大雑把さが私の代名詞だと言っても過言ではないのに、リーンウン国城の家臣や女中たちは「お客人ですから!」とか「救世主様!」と騒ぎ立てる。
ひとしきり騒いだリーンウン国城の人たちはバタバタと走り回るが、私はマイペースにクジャのお祖母様とお母様に水を飲ませたりしていると、一人の女中が私を呼びに来た。どうしたのかと後ろについて行くと、隣の部屋に案内される。
「んん!?」
広いその部屋には、キングサイズのような寝台が四つ用意されていた。
「どうぞこちらでお過ごしください」
女中は笑顔でそう言うが、何かを忘れている気がする。……クジャとモズさんはこの城に部屋があるはずなので問題はないが、寝台の数的に私、お父様、じいや、レオナルドさんの為に用意してくれたのだろう。
「……! そうだわ! 城の入り口で騒いでいた人はどうなったのかしら!? カラスさんとハトさんという名前なの! クジャの味方なのよ!」
すっかり忘れてしまっていたが、入り口での騒ぎは陽動作戦だ。あの二人が怪我などしてしまわないか心配になってしまった。
「ちょうどその話をしに行ってまいりましたぞ」
じいやがそう言いながら部屋の入り口から顔を覗かせる。
「あぁ良かったわ。それで……女中さん? とお呼びして良いのかしら? せっかくお部屋を用意していただいたのだけれど、私はお二人の看病をしたいからあの部屋にずっといたいのよ」
苦笑いでそう言うと、女中は困り顔のまま固まってしまった。するとじいやが、私からは見えない位置にいる誰かに話しかけている。
「私たちも手伝います」
そこには少し疲れた様子の、私のお母様くらいの年齢の女性と、私と同じくらいの年齢の女の子が立っていた。その二人を見た女中が叫ぶ。
「メジロさん! スズメちゃん! 大丈夫なの!?」
「はい、ご心配をおかげしました」
そう言ってその二人は笑う。聞けばメジロさんという女性は、元々クジャのお母様のお世話をする係だったらしく、スズメちゃんという女の子はメジロさんの娘さんとのことだった。何よりも一番驚いたのがメジロさんの放った一言だ。
「義父の手当までしていただいたそうで……本当に感謝いたします」
義父というのは誰なのか一瞬分からなかったが、なんとモズさんのことだったらしく、二人は牢に入れられていたモズさんのご家族だったのだ。元々モズさんの奥さんがクジャのお祖母様の世話をしていたらしいが、その奥さんとモズさんの隠居したご両親は心身ともに疲れているため、今は自室に戻り休んでいるそうだ。そしてメジロさんの旦那さんである、モズさんの息子さんがクジャのお兄様の世話をしていたようで、今はモズさんと共にそちらの部屋に行っているらしい。
「まぁ! はじめまして、カレンと申します。あの、無理せず休んでください」
「牢と言っても、食事は与えられていましたし、身体の拘束もありませんでした。ですので私たちは大丈夫です」
そう言ってメジロさんは微笑む。その隣ではスズメちゃんがうんうんと頷いている。
「じゃあお世話をする準備をしましょうか。すみません、また布と裁縫道具をお借りしても良いですか?」
女中に声をかけると、「しばしお待ちください」とパタパタと部屋を出て行った。私たちはそのまま隣の部屋に移動しようとすると、じいやが口を開いた。
「姫様、何か手伝えることはありますかな?」
何気ないじいやの一言だったが、メジロさんとスズメちゃんは立ち止まり固まっている。
「……姫……」
「……様……?」
二人はそう呟いている。
「えぇと……えぇ〜と……愛称なのよ、私の!」
一から説明するのも面倒で、私はそう言うと二人はホッとしたような笑顔となり「カレンさんとお呼びしますね」と言ってくれた。それを聞いたじいやも苦笑いになっている。私の気持ちを察してくれたのだろう。
そんなじいやに「こんな植物は知らない?」と説明をしていると、メジロさんが「万能草かしら?」と呟く。
「とにかく臭いの」
ナーの花の匂いを気にしない私がそう言うと、じいやは驚いている。
「おそらく私たちが万能草と呼んでいる草です。すぐ近くに生えているので……スズメ、ご案内してあげて」
そうメジロさんが言うと、スズメちゃんは「はい!」と元気な返事をしてくれ、「こちらです!」とじいやを案内し始めた。
それを見届けメジロさんと共にお二人が休んでいる寝室へと入ると、静かに眠っているお二人を見たメジロさんはいろんな感情が昂ぶったのか泣いてしまったのだ。そんなメジロさんの背中をそっと撫でていると、先程の女中さんが布と裁縫道具を持って来てくれた。
「さぁ、お二人が快適に休めるようにおむつを作りましょう」
そう言うとメジロさんは大変驚いたのだ。
「お二人はしばらく動けないし、無理に動かすのも危険なの。だからお便所にも行けないから、おむつが必要なのよ。私は慣れているから、交換は任せて!」
そう言うとメジロさんはまた涙ぐむ。牢に入れられるまでは、お二人は何とか移動して排泄をしていたと言っていた。
「泣いている暇がないほど忙しくなるわよ。一緒に頑張りましょうね」
私の声かけにメジロさんは頷いてくれた。そしてじいやが戻って来るまで、女中さんも交えてひたすらおむつを縫ったのだった。
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