第212話 聴き取り2
その日は一日かけてクジャとモズさんの話を聞いた。すぐにでもリーンウン国に行きたかったが、二人がいなければリーンウン国に入ることは出来ないだろう。怪我の療養も兼ねて聴き取りをしたのだ。
クジャは家臣たちに疎まれていたが、家族関係は良好だったようだ。ただ、クジャの母親もクジャを産んだことにより、家臣たちにいろいろと酷いことを言われていたそうだ。それを間近で見て育ったので、母親に気を遣ってあまり近寄らなかったせいで、お互いに大事に思っているのに少しギクシャクしているとも語っていた。
モズさんは代々王家に仕える家系らしく、誰もクジャの世話をしようともしないことに怒り、先代の王に直訴してクジャ付きになったらしい。モズさんに甘やかされて育てられ、そしてギスギスとした城に居たくないクジャは小さな頃から城を抜け出していたそうだ。優秀な兄と比べられるのも辛かったらしい。
城を抜け出しては街へと遊びに行き、民たちにはその自由奔放さから親しみやすいと慕う民と、王族らしくないと毛嫌いする民とに分かれているらしい。クジャはクジャで辛い過去があったのだ。
そしてその奇病の発生について尋ねたが、どうやらクジャの祖父が亡くなった後から発生したらしい。
クジャの祖父は生まれつき体の弱い人だったようだ。優しく穏やかで優秀だったその祖父に、王の座を譲りたいと思った先々代の王、クジャの曽祖父は生前退位をし王位を譲ったそうだ。
ただ、やはり体の弱さから年々床に臥せるようになり、クジャの兄が産まれた辺りでクジャの父親が当代の王になったと言う。
私とクジャが出会う一年程前に、先代王である祖父が奇病ではなく持病で亡くなったそうだ。平均寿命の長いこの世界で、六十代の若さで亡くなってしまったらしい。そして最近になって立て続けに王族が奇病に侵され始め、曾祖母、曽祖父の順に亡くなったそうだ。
リーンウン国の薬は効かず、テックノン王国から薬を取り寄せてみたものの、あまり効果はみられなかったと言う。そしてクジャの祖母と母親が完全に寝たきりになると、クジャへの風当たりは以前にも増し、そして先日、ついにクジャの兄と父親も倒れたことにより家臣たちのタガが外れ、手当り次第に物を投げられたり暴行を受けたようだ。
それでもクジャはやり返さなかった。家臣たちは、クジャの家族を想っての行動だからと分かっていたからだ。そして城から二人で逃げ出し、自国とシャイアーク国の国境警備隊に理由を話して、そしてここまでなんとか走って来たそうだ。
「……じゃから、戻ったとしても警備隊がリーンウン国の中に入れてくれるかは分からぬ……」
クジャは悲しそうに目を伏せたが、モズさんが反論する。
「……警備隊は……クジャク様を慕っておりました……ですから……国には入れると思います……」
リーンウン国内の民たちの派閥があるが、警備隊はクジャの味方だとモズさんは言う。けれど辛い目にあったクジャは怯えきっている。すると、それまで沈黙を守っていたお父様が口を開いた。
「して、カレンよ。その奇病はどうにかなりそうなのか?」
「確証はないけれど、目星はついているわ。ただすぐに治る病気なんてないわ……」
他の話も聞いた時に、思い当たる病があったのだ。そう言うとお父様はいつもの調子で話し始めた。
「よし、明日行くぞ」
私とじいやは予想していたが、クジャもモズさんも、そして匿っているペーターさんも口をあんぐりと開けて驚いている。
「私たちは自分からは攻撃しない。だが攻撃されたのならやり返す。人も動物も、圧倒的な力の差を見せれば戦意は喪失するのだ。私とじいの戦力はすごいのだぞ。……まずは国境だな。そしてそのまま城を目指し、カレンになんとかしてもらおう」
お父様は笑って二人に話しているが、クジャとモズさんは「そんな簡単には……」と驚きを通り越して引いている。
「大丈夫よ。森の民の底力はすごいのよ? ね、ペーターさん」
ペーターさんに話を振ると、動揺しながらも「実際にこの目で見て来たからな……」と、つい先日までヒーズル王国に滞在していたことをクジャたちに話し始めた。
「……ずるい……」
ペーターさんは想像以上に過酷な土地で、一から森や畑を作っていた元森の民の話をすると、クジャは一言そう漏らした。
「……わらわも……わらわも遊びに行きたいのじゃ……」
まるで駄々っ子のように話すクジャに私は微笑みかける。
「えぇ。その為に、クジャの大事な家族を救いましょう? 物事には順番があるのよ。まずは二人は今日このまま休み、明日にはリーンウン国を目指しましょう。……あまりこういうことは言いたくないけれど、お祖母様とお母様は早く診たほうが良いわ」
その言葉にクジャは青ざめてしまった。そして目をぎゅっと瞑り「明日には完全に復活するのじゃ!」と眠ろうとしている。クジャも覚悟を決めたようだ。その時、ペーターさんがおもむろに口を開いた。
「そうだ。カレンちゃんたちは、その服装で動くのは止したほうが良いな。目立ちすぎる。この国の服を用意しよう」
そう言って、カーラさんに会いに行くと部屋を出て行った。
日は暮れ始めている。明日の朝一番に、私たちはリーンウン国を目指すことに決まった。
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