第158話 カレンの手抜き料理
いつもの状態に戻ったお父様とタデも一緒に広場に戻ると、その二人を見た民たちもまたピリピリとした空気がなくなる。私とスイレンよりも長い期間お父様たちを見てきた民たちはあの面倒くささを良く分かっているのだろう。
「カレンよ。あの茹でたタッケノコはまだ残っていたな? 何か別のものは作れないだろうか?」
ふいにお父様に声をかけられた。美樹の家では焼いて食べるのが定番だったので少し悩み、米のないこの場所では炊き込みご飯にすることも出来ずさらに頭を悩ませる。そして一日いっぱい砂を掘っていた私は実は疲労困憊である。そんな時は具材を全部鍋に放り込めば完成する味噌汁にしてしまおうと思う。美樹の家でもお母さんが仕事疲れでおかずを作る気力も体力もない時は、とにかく具だくさんの味噌汁を作っていたものだ。そして手抜き料理も多かったのだ。疲れきっている私もそれに倣おうと思う。
まずエビネとタラを呼んで数種類の野菜を畑から調達してもらった。キャロッチとポゥティトゥをひと口大の大きさに切り鍋に入れて茹でる。その間に数個だけ残しておいたタッケノコの皮を剥き、火が通りやすいように薄く切る。これはもうえぐみやアクが出始めているかもしれないが、とにかく疲れている私は細かいことは気にしないことにした。そして熱したフライパンにタッケノコを放り込んだ。
キャロッチとポゥティトゥに火が通ってきた頃に、残りものの茹でたタッケノコを適当な大きさに切り鍋に入れる。沸騰する前にミィソを入れねばと思っていると、近くの女性陣がやってくれると言うので感謝の言葉を述べつつお願いした。
同時進行でざく切りにしたキャベッチと細長く切った緑のペパーの丸いほう、最近私はこれを『ピーマン』と名付けたが、それを入れて炒める。さらに種を取るためにあえて収穫しないでいた緑のペパーの細長い方、同じくこれを『シシトウ』と名付けたのだが、収穫せずに放っておくと実は緑から赤くなる。当たり外れはあるが多少辛味はある。鷹の爪のように刺激的な辛味は期待できないが、彩りの為に細かく輪切りにして一緒に炒める。
「さぁ出来たわよ」
今夜の夕食はタッケノコの味噌汁と炒めものだ。こんな簡単な手抜き料理ですら民たちは「美味しい美味しい」と食べてくれ少し申し訳ない気持ちになってしまった。
────
翌日になり貯水池に行こうとしているところでエビネとタラに声をかけられた。
「姫様、ムギンの粉の消費が追い付かなくなってきています……」
少し申し訳なさそうに話しているが、最近は食についてアドバイスをしていなかったのは私である。さらにムギンの種類まで増やしてしまったのだ。これは解決しないといけない問題だ。さらに中途半端に開発を止めてしまっているものもある。これも完成させてしまった方が良いだろう。
「お父様、スイレン。今日は私はここで作業するわ。ヒイラギはこっちを手伝ってほしいの。オヒシバの方はどんな感じかしら?」
ヒイラギは「分かったよ」と軽く返事をし、オヒシバは凛々しい表情で口を開いた。
「はい。蛇籠は間もなく人工オアシスに到達します。ほぼ完成に近いと言っても良いでしょう」
「じゃあ水路の建設の人たちの半分をこちらの作業に充てたいの。良いかしら? オヒシバは水路作りの中心人物となってちょうだい」
そう言うとオヒシバは目を輝かせ半分以上の人をこちらに充ててくれた。そしてハマナスや他数名を引き連れ意気揚々と水路へと向かって行った。お父様たちもこちらは任せると言い貯水池へと向かった。
まず森の手入れをする者も農作業の者も最低限の人数にし、木材の加工が出来る者を一ヶ所に集めた。これから作ってもらう物にもムギンの製粉にも必要な『とうみ』という風の力で必要なものとゴミとを分けてくれる機械が必要だ。機械と言っても全て木材で作るのだ。美樹のご近所さんがこれを持っていたので構造は熟知している。まずはこれの設計図を描きヒイラギに渡す。
構造は分かるが細かい寸法が分からず『大体』や『おおよそ』で描いたのにもかかわらず、ヒイラギはそれを見て新たに設計図を描き直し集まった者に指示をしていく。
さらに本来作ってもらいたい物も描いていき、それもヒイラギが細かく描き直しまた別の者に指示をしていく。
「姫、これだけ人数がいれば数日で終わるよ。私に任せて」
手先が器用で仕事が早いヒイラギはそう言い自信たっぷりに笑う。
「だから姫は他にやりたいことがあったらそちらを優先して良いからね。分からない部分があったら呼ぶから」
木材加工といっても危ない作業もある。怪我などしないようにヒイラギは手伝おうとした私を気遣いそう言ってくれたのだ。あれもこれもやりたいことは山ほどある。ヒイラギの気遣いに甘えることにして私はその場を離れた。
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