第108話 お転婆姫✕お転婆姫
「そうじゃカレン、わらわのことはクジャと呼んで構わぬぞ」
アンソニーさんに注文を終えたクジャクさんはこちらを向きそう話す。
「いいの?多分……私のほうが歳下だと思うけれど……」
おずおずとそう言えばクジャクさんは口を開く。
「わらわは十六歳だが、友人に歳の差など関係なかろう。構わぬ。わらわの家の者しか呼ばぬクジャという愛称で呼んでくれぬか?」
「分かったわ、クジャ。ねぇ聞いても良い?さっき自分のことを『あちき』って言ってたわよね?」
ただ単に疑問に思ったことを口にすれば、真っ赤になって年相応にうろたえている。
「あ、あれはな……我が国では女は自分のことを『あちき』と言うのじゃ。……平民に限られるがの。あち……わらわはその響きが好きで真似ておるのじゃ」
「じゃあ私の前では『あちき』で良いんじゃないかしら?公式の場でもないし友人なんだから」
そう笑って言えば、他に誰もいなければなとクジャも笑う。じいやとモズさんも意気投合したようで会話が盛り上がっており、時折イチビたちも会話に混ざっていた。そうしてしばし談笑をしているとアンソニーさんが緊張の面持ちで料理を運んできた。
「お……お待たせいたしました。こちらスネックの揚げ焼きと蒸し焼きになります。……カレンちゃんが開発した料理ですが」
その最後の言葉にじいやが反応している。いや、もしかしたらスネックという言葉にかもしれない。ふと同じ席に座っている人たちの顔を見れば、イチビたち四人以外は真顔になっている。
「……スネックとは、あのスネックか?」
真顔で料理を見つめるクジャはそう呟く。どうやらスネックは誰もが食べるものではないようだ。
「まさかカレンが捕まえたのか?わらわも狩りはするが、さすがにスネックは……」
「え!?クジャは狩りをするの!?私は狩りをしたことがないのよ」
驚いてそう言うと今度はクジャが驚く。
「森の民なのに狩りをせんのか?」
「狩る動物もいないのよ。このスネックはペーターさんや、このイチビたちが捕まえたのよ」
そう言うとクジャは悲しそうな顔をする。動物がいない土地というのを悲しんでくれているようだった。
「……出されたものは食す。食材には感謝をする。我が国ではそれが普通なのだが……スネック食べるのは初めてじゃのう……」
若干引きつった笑顔で食べようとするが、クジャの手は震えている。まぁ当然よね……。どこの姫だってさすがにスネックは食べないでしょうし……。それでもクジャは頑張ってスネックの揚げ焼きを口に入れる。引きつりながらもなんとか噛むと、段々と表情が変わっていく。
「んん!?……美味い」
そう言い次に蒸し焼きを食べると、今度は明らかに笑顔で言った。
「美味いではないか!食わず嫌いは駄目じゃのう」
そのクジャの言葉にモズさん、ニコライさん、マークさんも恐る恐る口に運ぶ。そして噛むごとに表情は明るいものへと変わっていく。そしてよほど気に入ってくれたのか奪い合いのようになっているが、気付けばじいやまで参戦している。
「じいや!?大丈夫なの!?」
「見た目が駄目なだけですからな!しかも姫様の手料理とあっては食べないわけがありませんな!」
こんな状態になってしまえばもちろんすぐに皿は空になり、クジャたちは「おかわり!」と叫んでいる。するとアンソニーさんはわざわざこちらへ来て申し訳なさそうに頭を下げる。
「スネックの肉はあるのですが、もう揚げ焼きしか出来ません。蒸し焼きに使う異国の酒がもうないのです」
それを聞いたニコライさんが口を開いた。
「もしやテックノン王国で作られている『ワイン』という名の酒ですか?その香りが料理からしたのですが」
「ニコライさん、多分それで間違いないわ」
アンソニーさんに代わり私が答えると、ニコライさんは旅のお供にといくらかお酒を持って移動しているらしく、馬車に積んであるという。マークさんがすぐさま立ち上がり馬車へと走り、戻ってきた時には二つのトランクのようなケースに入れた白ワインを持ってきた。その数合計八本だ。
「この町はあまりお酒を飲まれないと聞いていましたが、全く飲まないわけではないのですね。このように料理に使っていますし。次回来る時にでもたくさん持って参りますよ?それまでこちらをどうぞ」
ニコライさんがそう言えばアンソニーさんはとても喜んでいる。そして定期的に購入することを決めたようだった。
そんな明るいムードの中、じいやに小声で話しかけられる。
「姫様……いつの間にスネック料理など……」
「あぁ、うん、手が空いた時にパパっとね」
苦笑いで答えていると、今度はペーターさんが小声で話しかけてきた。
「いつの間にこの町の名物料理があのスネック料理になったんだ?……まぁ名物らしい名物が無かったからいいんだが。そして美味かったしな」
と少し困惑気味であった。そして定期的にスネックを獲りに行かなきゃな、という呟きにじいやは震えていたのだった。
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