第52話 畑の拡大

 香草を植え終わった私は畑へと向かう。じいややナズナさんたちは森作りに戻って行った。

 畑に着くとお父様は相変わらず圧倒的なパワーで畑を耕している。お父様だけじゃなく他の人も耕しているが、どう見てもパワーもスピードも桁外れだ。

 そしてスイレンは現場監督のように上手く指示を飛ばしている。主に集中すると途端に方向音痴になるお父様に対してだけれど。


「スイレーン!」


「カレン。あっちは終わったの?」


「まだよ。こっちも気になって」


 後ろからスイレンに抱き着くと、驚きつつも癒やしの天使のスマイルをくれる。そして私に気付いたお父様たちが集まって来た。その中に一緒にリトールの町へと行った、イチビ、シャガ、ハマスゲ、オヒシバの四人もいた。


「おぉカレン!イチビたちから旅の様子を詳しく聞いたぞ」


 お父様は笑顔でそう言うが、私は驚きと疑問で頭がいっぱいになる。何故なら行きも帰りも彼らとはほぼ会話をしていないからだ。最初の頃のタデのようにピリピリとした怖さはないけれど、目はそらされあまり口数の多くない彼らに嫌われているのかと思い、こちらも前回のタデの件もあったのでおとなしくしていた。


「……私、嫌われたてたんじゃ……?」


 疑問は小さな声となり口から出てしまった。すると四人は慌てふためく。


「とんでもない!」

「緊張します……」

「……ただの無口です」

「可愛すぎて直視出来ない……」


 口々に弁明をする四人。最後の発言をしたオヒシバはイエローカードだと思ったが、口に出さないでおく。


「あぁそうか……はじめに言っておくべきだったな。イチビたちはどの能力も高いが、照れ屋で恥ずかしがり屋で気持ちを伝えるのが下手なのだ」


 そう苦笑いで説明をお父様はしてくれたけど、要するにコミュ症なのかしら?そう思い彼らの顔を見ると全員が真っ赤になり目を泳がせている。


「ぷはっ!あはは!……なんだぁ心配して損したわ!仲良くしてね」


 私は無理やり彼らの手を握り握手をすると「うひゃあ!」等と声を上げていた。


「話は変わるけど、さっきじいやとも話したんだけど……」


 私は要塞計画をみんなに話した。みんなは驚きつつも守りを固めるのは賛成だと言ってくれる。ただそれは後回しにし、今は森や畑を作って衣食住の確保を最優先にしようということにやはり決定した。そして要塞の建設を始める時に畑を南側にずらそうという案も出た。そうと決まれば畑仕事をしないとね!


「じゃあ種や苗を植える前にまた土に栄養を与えましょうか。また湿地の泥を貰って来たの」


 私がそう言うとイチビたちは荷車まで走り、リトールの町で手に入れたものを荷車ごと運んでくれた。スイレンも家まで走り、寄せてくれていた種を持ってきてくれる。前回同様、限りのある湿地の泥は薄く畑に撒いて土に馴染ませた。

 道具が足りず見学していた民たちは種まきに参加してくれる。みんな物覚えがよく、前回の作業を見ていた人やエビネやタラを中心に作業を進めてくれた。


 今回畑に新たに植えたのはオクラと思われるオックラー、かぼちゃと思われるパンキプン、キャベツと思われるキャベッチ、玉ねぎと思われるオーニーオーン、人参と思われるキャロッチ、そしてししとうとピーマンことグリーンペパーだ。

 オックラー、パンキプン、キャベッチは種なのでたくさん植えることが出来たが、それ以外は苗なのでそんなに数を購入出来ず、一つの畑に数種類植える形になった。


 そしてその畑の南側に果樹を植えていく。これは木になるものばかりなので、間を開けて丁寧に植え付けをした。リーモンは一株しかないので特に丁寧に植え、畑の土を少し貰い根元に撒いた。

 綿の木ことコートンの木も植え、胡椒ことペパーには支柱も立てる。これに上手く巻き付いてくれるといいけど。


「できるだけ連作しないように畑を増やしてすき込みもやってしまいましょう」


 そう言うとお父様以外の大人たちはバトンタッチして畑を耕す。私とスイレンは収穫の終わった野菜を探し、鍬を持っていないイチビたちにそれを渡し刻んでもらう。そして刻んだ物を畑へと撒き土と混ぜ込んでもらった。


 それにしてもお父様のスタミナには驚いてしまう。休み無しでずっと耕しているんだもの。もっと食糧事情が良くなったらさらに動けるってことよね?誇りに思うと同時に末恐ろしいと思ってしまった私だった。

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