第30話 さらなる農業指導

 広場から東へ歩きナーを植えていく。これも丈夫な植物なので根さえ定着してくれたら自然と増えるだろう。最悪、種が出来ている株があるので種を採取して植えるのもアリだ。そんなことを考えながら一人で穴を掘っては植えている。ヒーズル王国の大人は本当にこの匂いが嫌いらしく、あのお父様ですら着いてくると言わなかった。離れた場所からヒイラギと一緒に私を見守っている。


「姫ー!」


 遠くから呼ばれ振り向くと、広場から私を呼んでいる人がいる。ちょうど全部植え終わり、お父様たちと合流して広場に戻るとトウモロコーンの茎を細かくするのを頼んだ人たちだった。名前が分からずお父様にそっと聞くとエビネとタラという名前だと教えてもらった。


「エビネさん、タラさん、どうしました?」


「姫!そんな『さん』付けなどおやめください!呼び捨てでけっこうです!敬語も不要です!」


 二人は大慌てでそんなことを言う。


「じゃあ……エビネ、タラね。どうしたの?」


 改めて言い直すと二人は作業が終わったと言うので見せてもらうと、ちょうど良い塩梅に茎を刻んでくれていた。それを見てお父様に話しかける。


「お父様、今日も耕すのをお願いしていい?」


「あぁ任せなさい」


 お父様は鍬を手に持ちどこを耕すか聞くので、昨日作った畑のすぐ隣を耕すように頼む。ヒイラギも「私もやるよ」と鍬を持った。


「今日はすき込みという作業をするわ。お父様、昨日のようにあまり深く掘らなくても大丈夫だから」


 そして細かく刻んでくれた茎を土の上に撒き、これと土を混ぜ合わせるように耕して欲しいと頼む。


「こうやって必要のない部分を土に混ぜて栄養にするの。ただ元気な土でも十日くらいはこのまま何も植えずにいるんだけど……隣の畑から微生物が来るのを期待しましょう」


「すぐに植えてはダメなのか?」


「うん。栄養になる途中の作用で種や苗に良くない影響が出てしまうの。だから我慢よ」


 お父様たちは勉強になると頷き合っている。日本で生きている時、野菜を買うよりも苗を買って作ったほうが安上がりなのではと家族会議をし、庭の片隅にプチ菜園を作っていたおかげで中途半端ながらこういう知識を得られたことに感謝だ。


「他に何か気を付けることはあるのか?」


「うーん……あぁ!連作障害!」


 耳慣れない言葉にみんな首を傾げる。


「同じ畑で同じ作物を作っていると病気になったり収穫量が減ったりするの。だから一度収穫を終えたら、次は違う作物を植えるのよ」


「……どういうことなのだ?」


 森の植物は生えたら生えっぱなしなので理解出来ないのだろう。みんな本気で分からないという顔をしている。


「この世界でも同じかは分からないけど、同じ作物を植え続けるとそれが好きな害虫……良くない効果をもたらす虫や菌が土の中に増えてしまうの。違う作物を植えることでそいつらは食べる物を失って自然と死滅するのよ」


 それを聞きお父様たちはほー!と歓声を上げる。


「あとは……昨日そっちの畑に植えたディーズね。私たちは大豆と呼んでいたけれど、豆が成る植物は土を肥やしてくれるの。簡単に言うと根っこに付いた菌が土に良い成分を作ってくれるのよ。だからディーズを植えたあとに違う作物を植えると、次の作物は元気良く育つわ。というか個人的にディーズは大好物だから増やしたいの」


「カレンが好きな物ならたくさん増やそうではないか」


 そう言ってお父様が笑うと、エビネとタラ、ヒイラギもつられて笑う。


「そもそもそのディーズというのは美味いのか?」


「え!?ってそうか。知らない物は口にしないんだっけ。でも私がいるからには食べたことのない物をたくさん食べてもらうからね!これは国民のみんなにも伝えてね」


「そうだな。少し勇気がいるがカレンが口にするなら食べてみよう。我々が変わらねば生きていけないと痛感した」


 少し悲しそうなお父様を見て、私はナーの匂いにも慣れてと茶化して言うとお父様は苦笑いし、それを見た三人が笑うのだった。

 ふと畑を見ると、昨日植えたトウモロコーンの芽が出始めている。


「あ!トウモロコーンが!」


 私が指さすとみんなも畑を見る。


「いつもより発芽が遅いな。そして発芽したのはトウモロコーンだけか」


 お父様は特に気にすることなく言ったけど、この土地は植物が早く成長するという仮説が崩れた?なんでトウモロコーンだけ?いやいや、謎は深まったけどもう数日様子をみよう。

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