File.20 怪盗ダンタの殺害予告    (怪盗書架殺人事件)

Ep.0 怪盗と殺人鬼

 一人の警官が暗がりの路地に隠れ、獲物を待っていた。まだ寒く、ただただ静かなだけの世界。そこで沈黙を守らなければならないその一秒一秒、警官にとっては耐え難い退屈なもの。時々、大声を上げたくなってしまう。しかし、その欲望を心の中で封じ込む。実際は背後にいた警官の手よって口を抑えられているのだが。

 警官が声を出す前に静寂は破られた。

 窓ガラスの割れる音。

 そして、近くの家から飛び出した古い本に手を掛ける何者かの姿が目撃された。


「……今だぁ! 灯りを付けろぉおおおおおお! 目標確認! 今日こそ! 憎き怨敵、怪盗ダンタの納め時だ! 我々に予告状など出したが、運の尽き!」


 燃え盛る警官の声が近所迷惑になる程だ。近くに停めておいた車のライトが光るだけではなく、近くの民家の電気までもが付いていく。

 ついでに何者かも懐中電灯を刑事の方に向けていた。


「くっ……!」


 そして何かを落とし、素早い身のこなしで逃げていく。白いマントを纏っていた何者かは瞬時にブロック塀の上へ。その上で颯爽と走り、途中で他の家の中へと落ちて消えていった。

 闇に紛れる前に追おうとしていた刑事なのだが。目の前に何かが張り付いた。その正体は一万円札と定規で筆跡が分からないように丁寧に書かれていたメモだ。そのそばには札束までもが落ちている。


『ワッテシマッタガラスノシュウゼンヒ二。コヨイモキショハイタダイタ。ダンタ』


 コケにされて、ただただ逃げられただけの結果となる刑事。その悔しさは誰もがそう簡単に想像できるものではなかった。

 くしゃくしゃにして破れる寸前まで強く握ったメモをその場に捨て、彼は叫んでいた。


「待て待てぇ! 絶対に捕まえてやる! 怪盗ダンタ! 絶対に逃がさんぞ! この命、輝く限り、お前に安寧の時間などない!」


 神出鬼没の大怪盗、ダンタ。

 奴の鮮やかな手口。そして何故か破壊したものを弁償までしてくれる律儀さが世間で話題となっていた。

 だから、か。

 闇から現れた何者かが怪盗ダンタの後ろ姿、白いマントを羽織った存在の写真を写した者は何かをしきりに呟いていた。


「殺してやる……殺してやる」


 何が入っているか分からない瓶を睨み、再度口にした。


「絶対に殺してやるっ!」

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