Ep.10 史上最悪の告白を

 梅井さんが自首をした。つまるところ、この事件は解決なのだろうか。まだ事件に残っている幾つもの謎が解けていないままだ。

 彼女が犯人である証拠はあるのかと、赤葉刑事に尋ねてみる。


「証拠を提出して、自首してきたんですか?」


 赤葉刑事は困り顔で「実はそうではないのよ」と言う。では、一体どういうことなのか。

 疑問の山に圧し潰されそうな僕達へ彼女は快く事情を教えてくれた。


「昨日のこと。近くの交番に駆け込んだそうなの。自分があの殺人事件の犯人だって。自分を捕まえてくださいって……」


 月長さんの方は呆気に取られている様子だった。驚きの表情を見せた状態で固まっている。彼女も梅井さんが自首していた事実は知らなかったようなのだ。

 知影探偵は謎に迫ろうと、どんどん赤葉刑事に質問を入れていく。


「その交番ではどう説明したんですか?」

「話によると、尾張ちゃんを殺したのは自分。自分が全部悪いから早く捕まえてくれ……って」

「でも、それじゃ信じてもらえないですよね」

「ええ。そんな言葉だけで逮捕しても、後で『やってない』って供述を変えられたらどうにもならないし。警官の方も証拠の提出を求めたんだって」

「そしたら? 何か、言ったんです?」

「スマートフォンに残っていたメッセージを見れば、自分が作った曲が二つも提示されている。自分が犯人であるからこそ、尾張ちゃんはこんなメッセージを残したんだって言い張ってたみたい」


 梅井さんに熱中している部長が聞いたら、発狂しそうな内容だった。

 しかし、少々不可思議な部分も見つけられた。何故、土曜日になって自首をしたのか、だ。警察が来た時点で自首すれば、罪は軽くなる。わざわざ日が明けてから、警察に行く必要はない。ただ、気持ちの整理と言われればそれまでの話だが。

 後、赤葉刑事が話す中でもう一つ、不自然な点が見受けられた。

 尾張さんが残したメッセージの件だ。僕がその点について赤葉刑事に喋ってみる。


「……しかし、何で梅井さんはメッセージを残したままに」

「自分が捕まる証拠を残しときたかったんじゃ……」

「それだったら、もっと違うものにしときません? メッセージは確かに状況的な証拠にはなりますけれど……物証としては、弱すぎますし。誰かに偽造された可能性もあります」

「……まぁね。それもあるよね……つまり、他の証拠がないのは、他の犯人がいるから……って、言いたいの?」

「そうです。まぁ、梅井さんの自首に何か企みがあれば、別ですが」

「確かに犯人だったら自首はしないから……って考えを逆手に取って、わざと自首するトリック……そういう企みもあり得るよね……」


 僕は頷いてから、メッセージに関する情報を求めることにした。警察であれば、もっと深く情報を手に入れられているのかもしれない。


「後、梅井さんのスマホでしたよね。あれは警察が持ってるんですか?」

「一応、被害者である尾張ちゃんが持ってた最重要物件だからね。動画サイトについては色々梅井ちゃんが作った曲が視聴履歴に残っていた位で……後、インターネットの方で履歴を調べてみると、かなり怪しいものばっかりなんだよね」

「怪しいですか?」

「ええ。殺人犯って事件の前に自分の殺人について色々調べることが多いのよ。例えば『遺棄できる場所』とか、『完全犯罪の方法』とかね。梅井ちゃんのスマホからはそんなものばっかりで……」


 確かに犯人が事前に事件の準備をする際、インターネットで調べものをすることがある。ただ、今回の場合、彼女は探偵を調べていた。何か事件のことをテーマに曲を作ろうとしていた可能性が高い。しかし、結果的に誤解され、刑事に疑われる状況にもなってしまったよう。

 ただ、実際は梅井さんが犯人として本当に犯行を調べていて、探偵を取材するという恰好で検索履歴を誤魔化そうとしたのかもしれない。そう考えたから僕は「梅井さんが犯人ではないですよ」と主張しなかった。

 また別に聞きたいこともあって、そんなことを喋ってる暇もなかった。


「そう言えば、聞きたいことはまだまだあるんです。赤葉刑事……尾張さんは何で梅井さんのスマホを持っていたんでしょうか。事件の際、ふと考えてしまったんですが……犯人が尾張さんを梅井さんのスマホで呼び出し、そのまま落としていったと思うんです……でも、そこからおかしいですよね。尾張さんは尾張さんのスマホを持ってるはずですし……」


 その質問に赤葉刑事はコメントを返してくれた。


「どうやら、尾張ちゃんはスマホを無くしてたみたいなの。リビングの棚の下に入ってた」


 「棚の下?」と復唱して疑問に思う知影探偵に、スマートフォンがそこにあった理由を月長さんが教えていた。


「たぶん、あの酔ってる中でスマホを転がしたか何かしたんだね。代わりに、テーブルか何かに置いてあったプラムンのスマホを勝手に使ってたと」


 失語症であった尾張さん。彼女にとって意思表示のためにスマートフォンは必須だったから、代わりに梅井さんのものを使った、か。

 犯人が梅井さんだとしたら、何故自分のスマートフォンを置いていったのか、更に分からなくなる。その時点で自首するつもりなのであれば、凶器に指紋を付けるなど、しておけばいい。

 一応、その考えも確かめておく。


「そう言えば、金属バットに指紋は……」


 赤葉刑事は本当に事件の情報について喋ってくれる。警察として危ういような気もするけれど。


「指紋はなし。だけど、少し。油が付いてべたべたしてたって」


 そこに梅井さん犯人説否定派の月長さんが発言し始めた。


「あっ! それってピザの油だよね。プラムンは確か、ピザを食べた後手を洗ってたから」


 これなら彼女を無罪にできると誇らしげに語る彼女のセリフを赤葉刑事は否定する。


「月長ちゃん。ファーストフードの紙ナプキンがあったよね。あれを擦り付けるか、あれで指紋が付かないようにすれば、油なんて幾らでも付くからね。油を付いてないとか、ピザを食べてないは、犯人じゃない証拠にはならないの」

「そ、そんなぁ……荒山だったら怪しいのに。絶対、ピザ食べた後、手洗わないのに」

「月長ちゃんは荒山くんをどうしても犯人にしたいの? 個人的な恨みでもあるのかな?」

「い、いや、そんなんじゃないけど……」


 話が進む中、知影探偵が別の話題を持ち出した。


「そ、そう言えば、盛り上がってるところすみません。プラムンさんは逮捕されたんですか?」

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