Ep.10 信じてよ
船水このみ、彼女は目の色を変えて美伊子の推理を無茶苦茶だと主張する。
「な、何なの。この悪い冗談は……。美伊子……悪ふざけなら怒るよ! あたし! 虎川くんも……何? あたしを
「ぐっ……」
確かに美伊子を手伝った。真相を知らされて船水以外の僕達四人が結束し、とある作戦を行った。
ある重要人物をおびき寄せるためだったのだ。警察も近くに待機させていて、彼女に危害が及ばないようにはした。
それでも船水の言う通り。探偵嫌いが普通取る行動ではない。しかし、大事な証拠を得るためにやるしかなかったのだ。
僕が自分の矛盾を指摘され、悶えている中、美伊子は先に決定的証拠を提示する。
「……そこの人の着てるレインコートに、君の汗が付いているはずだよ。たぶん、彼は犯人が使ったものをそのまま着用しただけだから」
「はっ……?」
「そして君が殺害した鈴牧さんにも汗はたっぷり付着しているはずだよ。私の予想によると、君は彼女をトランクの中に押し込んだんでしょ。その時にバッチリついていると思うな」
最初に物的証拠を示された船水は異常なまでに汗を垂らし出した。確か、彼女は祭りに来た一番最初の時点でも汗をたっぷり搔いていた。きっと犯行時にも汗を出していたに違いない。
そんな証拠では納得がいかなかった船水はアリバイのことに対し、美伊子に問いをぶつけてきた。
「ちょっと待ってよ。確かにそのレインコート……あたしのだよ。汗がついてるし、着て動けば中にぐっしょり入ってる汗が飛ぶ。あ、あたしが着てたレインコートをあの人が勝手に盗んだんだよ、きっと。汗がついてたかもだから、その汗が……被害者の」
「そうなの?」
「そうよ! それにアリバイ! あたしは祭りの時はみんなと一緒にいたよね? 被害者は綿菓子の袋を被ってたんだから、犯人は祭りの中で綿菓子を買った人に加えて、被害者を気絶、窒息させるまで何分かは隠れていなかった人物にならないの? あたしにアリバイがないのは被害者発見数分前。それじゃ、窒息させるまでの時間が足りないんじゃ」
そこを部長がよそよそしく語っていた。
「いや……それはもう崩れている。袋のこと、だ」
「袋……?」
「絵柄が去年の戦隊ものの奴だったんだ。船水……去年か、別の祭りで手に入れたもんを使ったろ。つまるところ、犯行は祭りが始まる前にも可能だったんだ。被害者発見するまでの数分間……たぶん、死亡推定時刻が分かるように、被害者をトランクから降ろす。そして第二の被害者に袋を被せてただけだろ?」
頼りにしていたアリバイが崩れていく彼女に美伊子が次の推理を口にした。
「で、さっき言ってたよね。綿菓子の袋を被ってたって……あれ、アリバイだけじゃないでしょ。じゃなかったら、二人目の被害者にまで袋を被せる必要はないもんね」
「その目的って何よ? 何で、そんなおかしいことをしなきゃ、いけないの?」
「本当の凶器を隠すため、でしょ? そのために袋を被せて襲った、袋が凶器であると印象付けたかった」
船水は後ずさりをして、美伊子の言葉に過剰な反応を見せた。
「な、何を言って……!?」
「鈴牧さんを窒息させた凶器は違うものって言いたいの。貴方はきっと、これを使ったのよ」
そう言うと、彼女は祭りの中で貰ったスーパーボールを二つ取り出した。ついでに先程拾っていたガムテープも手に収めている。
船水さんは顔を引きつらせながら、笑っていた。
「あはは……美伊子、本気でふざけてるの? スーパーボールとガムテープで何をって……美伊子!? マジで何やってんの!?」
僕も「えっ」と声が出た。美伊子は突然、部長の鼻に向けてスーパーボールを詰め始めたのだ。
部長は手足をジタバタさせて抵抗するものの美伊子の方が強いらしい。敵わず、されるがままになっていた。
一方美伊子は部長を「暴れないでね!」と言って、部長の鼻をスーパーボールで拡張していた。
「美伊子……何を……」
「どう? 鼻で息吸える?」
「す、吸える訳がな……い」
美伊子は素早く部長の鼻からスーパーボールを取り出し、ガムテープを持って説明した。
「この状況で口までガムテープで圧迫させれば、息を吸える場所はなくなる。窒息するってことだよ……被害者の口のベタベタはたぶん、ガムテ―プだと思う」
部長は大きく息をして何も言えなくなっていた。船水の方は抵抗している。
「ばっかみたい。何で、そんなことをする必要があるの? 結局は被害者を窒息させるんだから、袋を使えば良かったじゃない! 何でそんな阿保な方法を使って殺さないといけない訳!?」
「簡単だよ。夏祭りの仕組みを利用するため。スーパーボールは浴衣の中に入れて、たぶん、スーパーボールすくいで水の中に突っ込んだ時に同時に処分したんだよね。入れておけば、誰かがすくって持って帰ってくれるから。窒息死の際、相手が暴れるから凶器にはだいぶ証拠が残ることもある。その凶器を誰かが持って帰ってくれる……良い処分方法ができるよね。それにそのスーパーボールに指紋とか、別の証拠が付けば、もしかした警察は違う人を犯人と推測するかもしれないし。いいことづくめなんだよ」
「だったら、何でわざわざ綿菓子の袋を……被害者の顔に
「鼻の穴や鼻の付着物でスーパーボールって凶器が分かっちゃうと、すぐにスーパーボール屋さんを調べられちゃう。だから、捜査する側が違うものが凶器だと勘違いして、本当の凶器が何か分かるまでの時間稼ぎができれば良かったんだよ。誰かが自分の捨てた凶器を持ち去ってくれるか、スーパーボール屋さんが処分するまでの時間稼ぎを、ね」
「うっ」
「でも残念ながら、目論見は大外れ。
船水はその証拠を知らされても、諦めなかった。まだまだ抵抗の意思を見せてくる。
「そ、そんなのあの水の中であたしがドボンとなった時、付いただけでしょ! 元々、もう捨てられていたスーパーボールに!」
そこに僕がポロリと異論を放ってしまった。
「い、いや……僕が最初に見た時、全部浮いてたはずだけど」
なんて言うと、彼女は彼女自身の胸に手を当て、悲痛な声を出した。
「ねぇ。虎川くんは騙されてるんじゃないの? 美伊子に言われたんでしょ。あたしが水の中に体を突っ込んだ時、その時にスーパーボールを入れたんじゃないかって! 勘違いしてるんだよ! ねぇ!」
「えっ……それはないと思う……」
「いや、きっと、そうだよ! あたし、やってないもん! ねぇ、美伊子! ここまで行っておかしいこと、分かってる?」
美伊子は返す。「おかしいことって何?」と。
「おかしいことって決まってるでしょ! 今までの話をまとめると、あたしが思いもよらない凶器を使ったのは夏祭りという場を使って、とんでもない量の容疑者を出すこと。つまるところ、祭りの参加者全員を容疑者にして、自分が逃げること。だったら、真っ先に逃げちゃえばいいじゃない! お腹が痛くなったとか、言って! そうだよ! そういうことを考えれば、あたしが犯人じゃないって分かるよね!? だって、あたしは犯人じゃないんだから!」
「親友なら信じてよっ!」。美伊子は船水の叫びが終わるまで、黙っていた。
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