第58話 中堅ハンター・ブロムス

僕とハリッサは冒険者ギルドの受付嬢の後を歩きながら、冒険者ギルド地下にある闘技場という場所に、ブロムスという中堅ハンターたちと歩いていた。


「ハリッサさん、ブロムスさんはあんな感じで口は悪いですが、中堅ハンターですので実力は確かにあります。ですから、模擬戦と言えども無傷で帰れるか分からない戦いをするより、今のうちにブロムスさんに謝って許してもらった方が良いですよ?」


受付嬢はハリッサの事を本気で心配しているみたいだが……。


「私の方こそ謝るなら今のうちじゃないかな?っておじさんに言いたい位だよ」


「なんだと、ガキがぁ!?」


ブロムスはハリッサの言葉にブチ切れたのか、闘技場に到着していないのに、背中に背負っていた剣でハリッサに斬りかかっていた。 


ガキンッ!


ハリッサは身動きひとつしていないように見えるが、ブロムスの剣はハリッサに届く前に見えない何かに弾かれた様に見えた。


「なっ、何が起きた?」


「ちょっとブロムスさん! 何をしているんですか!? 今の行為は上に報告しますからね!」


「なにも無かったのにイチイチうるせえな!」


「そんな言い訳が!」


「私は気にしないから、早く闘技場に行って決着つけようよ」


「ハリッサがこう言ってるんですから、今のブロムスさんの行動は無かったことにしましょう」


「おふたりがそう言うなら……」


僕は闘技場に向かいながら、ハリッサにしか聞こえないレベルの小さな声でハリッサに話しかける。


「ブロムスさんの強さはどうだった?」


「やっぱり全然弱いよ。私の動きが全然見えてなかったよ」


「そっか……」


僕もさっきのハリッサの動きは全く見えなかったが、音からしてブロムスさんの攻撃をハリッサが高速で剣を抜きながら弾き返し、更に剣を鞘に戻したのだと思うが、この場にいる全員がハリッサの一連の動きを認識さえ出来ていなかった。


しかし、これで中堅ハンターだとしたらハリッサやクロポンはどのレベルなんだ?


「アカリお姉ちゃん、闘技場では刃がゴムになってる剣を使うよ」


「……その方が良いかもね」


僕は峰打ち用に造った両刃部分だけがゴムになっている特別製の大剣を他の人に見えないように取り出し、ハリッサに渡してあげる。


「ありがとう、アカリお姉ちゃん」


しばらく地下の廊下を歩くと巨大な扉を到着する。


そして扉を開くとそこにはコロシアムの様な円形のスペースがあり、高い外壁の上には客席もたくさんあった。


しかも、客席には何人も席に座ってる人が見受けられた。


何で観客がいるんだ?


「こちらが冒険者ギルドの闘技場になります」


「なんで観客がいるんですか?」


「ハリッサさん達は知らないかもしれませんが闘技場にはお金さえ払えば誰でも観戦出来るシステムがあります。それが冒険者ギルドの収益になりますから、使用回数に制限はありますが無料で闘技場を使用することが出来るのです。今回は突発的な開催なので観戦者は冒険者ギルド内にいた人だけなので少ないですが、事前に申し込んでいる場合はもっと大勢の観客がいます」


「なるほど……」


そんなシステムになっているのか。


「そして、闘技場には救護員もいますから重傷を負わない限りは死にませんが、もし死んだり後遺症が残ったとしても冒険者ギルドは一切の責任は負わないので気を付けて下さい」


「分かりました」

「分かった!」


「それで今回は1対1を何回か繰り返す感じにしますか?」


そう言えばブロムスさん達は4人いる。


よく考えたら新人のハリッサに中堅ハンターが4連戦っておかしな話だよな。


まあ、ハリッサが良いって言ったからこうなったんだけどね。


「俺達はそれでも良いが、どうせ俺だけで終わるだろうな」


「私は4人まとめて相手にするよ?」


「ガキがぁ、あまり調子にのるなよ? 俺達はこの4人でこれまで生死をかけた戦場を潜り抜けてきたんだ。俺達4人を同時に相手するってのは単純な4倍じゃないんだぞ?」


「そうですよ、ハリッサさん。いくら自信があるからってブロムスさん達を舐めすぎですよ」


「うん、それは分かってる。それでも私は大丈夫だと思ってるよ」


「それでも……」


「それにおじさんたちもさっきみたいな手加減じゃなくて本気で来てね?」


「思い上がったガキは痛い目を見た方が良いみたいだな! 多少は手加減してやろうかと思ったが本気でやってやるよ」


「それじゃないとやる意味がないからね!」




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