裏話・後編(2)
「ところで異世界転生モノのブームっていつ終わるんだろう?」
「え? 別に否定してるわけじゃないんですよね? 早く終わって欲しいんですか?」
「うん。……俺、このブームが終わったら異世界転生モノ書くんだ……」
「ひねくれ者過ぎる……。それ一生書けないヤツじゃないですか……。何でそんなムダなフラグ立てるんですか……」
「このブームに対するせめてもの反抗として」
「やっぱり否定してません? なろう系とか」
「っていうか、基本的に流行りものっていうのが嫌いなのかも。なろう系に関わらず」
「あ、この人プロでやっていけない人だ。色々割りきれない人だ」
「知ってた! ひねくれてるのも不器用なのも知ってた!」
「っていうか異世界転生モノ書きたいのは本当なんですか? さっきの発言がネタ過ぎて真意がよく読めないんですけど」
「ちょっと書きたいのがあるのは本当だね。もう誰かが似たようなの書いてるかもしれないけど、ここまで類似作品が溢れてたら今さらだろう」
「割りきるところがズレてるんだよなぁ」
「まぁ実際、書くかどうかわかんないし」
言いながら、のっぺらぼうはグラスの中身を確認した。
カフェに行ってそろそろ店を出ようかというタイミングでよく行う、あの儀式である。
既に氷とそれが溶けた水のみだったので、ほとんど味のしないそれだけを喉に流し込んでから語調を切り替えて言った。
「……さて、そろそろ時間だよ。簡単に、とか言っておきながら長くなり過ぎた。明らかに後編だけ過熱し過ぎてる。っていうか裏話トークっていうよりプライベートトークになってる……」
「うーん、もうちょっと話を聞きたかったよう」
「本来、今回の裏話トークは約2000文字で前後編のつもりだったんだよ。それが結局、四部構成でこんなに」
「じゃあ、また次の機会に、もしも私が呼ばれることがあれば!」
「やっぱり気にしてるじゃん……出番の件」
そのとき、部屋のドアがきぃと開いて、何者かが室内を覗き込んできた。
自然、のっぺらぼうと茅野は揃ってそちらに視線を向ける。
「え? マキナちゃん?」
その姿に驚いたような声を上げた茅野だったが、マキナと思しき少女は首だけ室内に突っ込んで何やらキョロキョロと見回した後、二人の姿など見向きもせずに去っていった。
自前の足で、それはもうこんなところになど用はないとばかりに足早に。
「今の、マキナちゃんでしたよね?」
「……マキナちゃんだったね」
「一体何をしに来たんでしょうか。何かを探してる様子でしたけど」
のっぺらぼうは嫌な汗が全身から浮き出しているのを感じていた。
ただ同時に、これがビジュアルのない活字媒体で良かったと心底ほっとしていた。
「いえ、何かを、というよりは、誰かを、といった感じですかね」
しかし、ただ状況を整理するかのように一人ぼやくように言う少女に不穏な気配を感じて、のっぺらぼうは下手な言葉を返すことができなくなっていた。
気付けば嫌な汗が止まらない。
「とにかく良かったです。退院して車椅子から解放されたんですね」
「いや、そりゃあいつかは退院するだろうけど……」
ようやく答えることが出来たのっぺらぼうの声は、しかし何かを恐れるような色を隠しきれていない。
そんな作者の不審な様子など歯牙にもかけず少女は続ける。
まるで母親のように母性溢れる感情と既に出番が望み薄な自身の嫉妬心がない
「芋ジャージを着て洒落っ気なんて微塵もなかった過去編からはいくらか大人びて、元々の素材を活かしたナチュラルなメイクまで決めちゃって。ピアスなんかもつけちゃって」
「待って。それ以上は言わないで」
しかしこの先の出番を剥奪された茅野少女の意図的な暴走は止まらない。
「どこかの高校の制服まで着て……あまり学力は
「いや、時系列おかしくない? 本編まだそこまで行ってないよ? あとホントにそろそろ自重しようか茅野さん。おしゃべりが過ぎるよ?」
嫌な汗が滝のように止めどなく流れ落ち、ただでさえ部位のない顔面が完全に覆い隠されるほどになっていた。
いやはや、この男は一体何をこんなに取り乱しているのか。
茅野少女はとぼけたような声色から一転、白々しいほど明るい声と笑顔で言った。
「まったくもう、冗談ですよ。嫌だなぁ、作者さんってば。ネタバレなんてするわけないじゃないですか」
「うぐぅ……果たしてこれが未遂で済んだのかどうかはこれを読んでいる人たちの想像力と洞察力によるところだよ……」
「だったらこんなやり取り書かなきゃ良かったじゃないですか、全部ご自身のさじ加減なんですから……」
「だってしょうがないじゃないか! 筆が乗っちゃったんだから! これでももう一歩踏み込んじゃってた君のセリフをカットしてるんだからね!?」
「なんか賛否の分かれる回になりそうですね……」
「とにかく今回は以上! ここまで! 過去編1も拝読ありがとうございました! また来週! はいジャーンケン……」
「サ○エさんじゃないんですから……」
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