後書きもどきの裏話トーク ~ゲストに本作のヒロイン? 茅野彩夏さんを迎えてお送り致します ~

裏話・前編

「書き下ろし連載怖い……」

「コーナー始まっての第一声がそれですか」


 ラジオブースのような狭い部屋だった。中央辺りに置かれたテーブルに一組の男女が向かい合っている。

 女のほうはこれといって特筆する要素のない、強いて言えば飾り気に乏しい、脇を通りすぎれば見向きもされないような少女だった。年の頃は十代後半といったところ。


 対する男のほうは少女以上に無個性で、しかしある意味で個性の塊だった。

 何せ顔面に部位というものが一切存在しない。眼も鼻も口も耳も存在せず、そこにはただ『作者』と書かれているだけの、のっぺらぼう男。性別を読み取ることができたのは、体格と声からだった。体格からは女性特有のしなやかさや柔らかさというものが一切感じられず、口が存在するかどうか不明だというにも関わらず発せられる声は明らかに変声期を終えており、どころか社会に出てそれなりの荒波に揉まれたかのような磨耗感がある。

 

 そんな声を不安感で包んで、のっぺら男は言う。

 

「いや、常に二、三話は先行してストックしてたんだけどね。プロットもそれなりに作ってあったんだけどね。それでもストーリー的な矛盾や齟齬がどこにあるかは書き始めてみないとわかんないし……。っていうか書き終わってみないとわかんないし。……大丈夫かなぁ!? どっか変なトコないかなぁ!? 話とか設定が食い違ってるとことかさぁ!!?」

「私に言われても……。私も結局は作者さんの頭の中の存在なので、100パーセント客観視は出来ませんし」


 のっぺら男はうーあー唸る。

 そんな男の悩みなど他人事とばかりに、少女はテーブルの上にあったグラスをあおった。浮いていた氷がからんと涼しげな音を立てた。

 短かった梅雨も明け、異常気象も散見される今夏、暑さも既に盛りである。


 そんなとき、どこからか現れた黒子くろこが何やら冊子のようなものを少女に渡し、何かを問われる前にすぐにどこかへ姿を消した。

 眼を丸くしてそれを受け取った少女だったが、しかし中身をあらためた途端目を丸くし、、その顔に険しさを滲ませる。


「え? これ私がやるんですか?」


 答える声はない。

 のっぺらぼうはまだ唸っている。

 少女は溜め息を吐いておっかなびっくり、仕方なく第一声を発した。


「えっと、そ、それじゃあ始めます。今回もやってきました後書きもどきの裏話トークのコーナー、ゲストは今作品のヒロイン? 茅野彩夏かやのあやかです。…………これ自分で言うの恥ずかしいんですけど…………あと、何でヒロイン? ってクエスチョンマークがついてるんですか……」


 ゲストである当人、茅野彩夏は受け取った冊子――進行表に疑義を呈した。

 ようやく唸るのをやめたのっぺらぼうが答える。


「前回ミコト君にも言ったけど、ゲストMCってヤツだよ。まぁ適当にやってくれればいいから。クエスチョンマークがついてるのはまぁ、あんまりヒロインっぽくないからかな」

「知ってた! 私より断然マキナちゃんのほうがヒロインっぽいですもんね! だったらマキナちゃんを呼べばよかったのに!」

「いや、君の出番がもうなさそうだから、ここは君を、と思って」

「言っちゃった! いえ別にいいんですけどね!」


 少女は勢い込んで声を荒げたが、しかしふと冷静になってのっぺら男の発言の裏に気付く。

 いや、それはそもそも薄々感づいていたことではあった。


「私は出番がなさそうだから呼ばれた……っていうことは、マキナちゃんは?」

「あー……うん、まぁ」


 顔に部位のない男は言葉を濁した。

 僅かに泳ぐ視線がほぼすべてを物語っていた。


「まぁ、明らかに遺恨を残して終わってますしね」

「過去編の1は飽くまで君の葛藤がメインの話だからね。マキナちゃんについては風呂敷を広げつつ伏線を張った、みたいな感じで、尾を引かせてもらったよ」

「次はいつ出てくるんですか?」

「言うわけないでしょ……」


 その反応に、ヒロインかっこハテナはふと思い出したことを訪ねる。


「っていうか、それですよ。今回もこのコーナーやるんだなって思って。作者さんが『このコーナーやると本編でネタにすることが減るから』とか言ってたってミコトクンに聞きましたけど」

「まぁざっくり簡単にね、やろうかと。本編でネタにすることが減らない程度にね」

「そうですか」


 そのせいで自分がこうやってコーナーの進行をやるハメになったのかと思うとほんのり釈然としない気持ちもあったが、少女は腹を決めて進行表に視線を落とした。


「えーっと、それじゃあまず……今回の話を書こうと思ったきっかけは?」

「君みたいな事情を抱えることになった人間がハンデを受け入れて尚且なおかつ開き直るのを書きたかったのと、ミコト君のルーツみたいな話を書きたかったのと、あとは小説をネタにしてみたかった」

「…………」


 のっぺらぼうが最初のひとつを口にしたところで少女が恥ずかしそうに身をよじり、最後のひとつを言い終えた段階で完全に顔面を紅潮させて両手で覆い隠してしまった。しばらくそのまま動かなかったが、十秒ほどして何とか気を持ち直したようで、まだ僅かに火照っている様子の顔面を晒した。黒歴史は誰にでもあるものである。

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