裏話Part2

「つーか万引き初犯の常套句みてーに言ってんじゃねーよ。完結に時間が掛かったことの言い訳にしちゃ意味わかんねーし」

「いやね、最初に公開し始めた時のペースなら二ヶ月くらいで完結できるんじゃないかと思ってたんだよ。遅くても一月中には終わるだろうなって思ってたんだよ」

「終わってねーじゃねーか。今、何月だと思ってんだ」

「違うんです! 聞いてください刑事さん!」

「まぁ犯人が自供した後の身の上話を聞くのも刑事の役目みてーなもんだしな。いーよ、聞いてやるよ、で?」

「エピソードごとに読み返しながら公開して読み返しながら公開して……を繰り返してる内に、ここはこうしたほうが面白くなるんじゃないか、ここにこのエピソードを加筆したら面白くなるんじゃないか、ここでこうしたのならここにこのエピソードを加えるべきなんじゃないかってのが続々と出てきて」

「それでこーなったわけか」


 少年刑事はどこからか取り出したタブレット端末にあるデータを表示させた。


  事前に完成していた原稿  →  143XXX文字

  実際に公開した小説    →  212XXX文字


「おかげでいくつかの新人賞に応募できなくなったよ……」


 のっぺらぼうはげんなりした様子で事の顛末てんまつを口にしたが、少年刑事の所感は厳しい。


「ただ単に推敲不足だったんじゃねーの?」

「完成したのは何年か前だし、四回は読み直したよ。でもWeb小説の特性なのか知らないけど、ここで公開しようとして読み返してると、これまでの推敲では見えなかったものが見えてきてさ」

「ふうん。まぁ、それでプラス七万文字だとしても時間掛かりすぎだと思うけどな」

「結果的に出番増えたんだし、別にいいじゃないか」

「いーや、早く次に行かせろよって焦れったかったな」

「話を進めながらそんなこと考えてたんだ……。ちょっとショックだよ……」

「半年以上もダラダラ仕事させられたわけだからな。コスパわりーんだよ。もっと費用対効果を上げろ!」

「善処します……」


 少年が持ち出してきたクレームには作者のっぺらぼう自身、前々から抱いていた課題でもあったので、そこは素直に受け止めるしかない。


「つーか、もう少し短くまとめることはできなかったのか。そしたら時間も多少は短縮されただろーに」

「それは一重ひとえに自分の実力不足のせいです……。短くまとめるのって苦手なんだよね」


 作者のっぺらぼうは肩を落とし、次いでこの作品の執筆経緯を脳裏に思い返した。


「これでも泣く泣くカットしたシーンもあるんだよ。ミコト君が那由ちゃんに○○○されるシーンとか、美夜ちゃんに○○○されるシーンとか。たぶん合計で一万文字くらいボツにしてるんじゃないかな」

「プラマイでプラス八万文字じゃねーか。つーか、おれ、女子に何かされてばっかりだな! カットしてくれて良かったよ!」

「いやいや、その分、新しく君が憂き目に遭うシーンを入れてるから」

「そこはプラマイゼロなのか!」

「いや、若干プラスだと思う」

「それはどーいう意味だ!? おれにとってはボツにされなかったほうがマシだったって事なのか!?」

「さぁ~? どうだろうね~?」

「くそっ、しらばっくれやがって!」


 少年刑事は分厚い紙束げんこうに視線を走らせ始めた。

 どうやら改稿前の原稿で自分がどういう扱いになっていたのか確認するつもりらしい。作者はんにんが口を割ろうとしない真実が、そこにはある。……まぁ、より面白くしようと頭を捻ったわけなのだから、結果は言わずもがな、だ。

 そんな少年を前に、のっぺらぼうは文字数云々の話を続ける。


「まぁ、他にも何ヵ所か不要だなって感じるところはあるけど、今の力では、削れてもせいぜいマイナス三万文字が限界じゃないかな」

「ほとんどの新人賞がムリくせーな!」

「うん、もう諦めてる……」


 少年刑事はなおも血眼になりながら原稿を読み漁っていたが、尋問も一段落したからか、取調室を演出していた四方の背景パネルが解体されてするすると右のほうへと流れていった。代わりにどこか雰囲気のある小洒落たカフェの内装が描かれた背景パネルが左の方から現れ、二人の周囲に組み立てられていった。


「これ、セットだったんだ……」


 その様を呆れたように眺めていた作者のっぺらぼう。そんな中でも少年は原稿に忙しなく視線を走らせていたが、それもやがて、どこからか全身黒ずくめの黒子くろこが現れて奪い去っ……もとい、回収していった。


「待て! まだおれは真実を確かめてな……くそっ!」

「ほらほらミコト君、もう本来の主旨に戻るよ」

「……これまでもちゃんと裏話はしてたじゃねーか」

「そのシチュエーションがなんで取調室なんだよ。あんなのトークじゃないよ。尋問だよ」


 ふう、と一息ついた少年――星名ミコトは、仕方なく頭を切り替え、いつの間にか机の上に用意されていたアイスティーを一口啜すする。

 作者のっぺらぼうもそれに倣ってカップに口をつけているところに、黒子から進行表が差し出された。……少年の手元へと。

 もはやどこに口があるのかという点については触れまい。


「何で進行表それがそっちに!? 僕が君をゲストに招いて色々話をするっていう企画だったと思うんだけど!?」

「ゲストMCってヤツだよ。作品の裏話をするんだったら、むしろおまえが根掘り葉掘り訊かれるほうだろ」

「えぇ……」


 アイスティーを啜りながら進行表を確認し始めたミコトに対し、自身がMCをやるものだとばかり意気込んでいた作者は嘆息する。結局、尋問になる未来しか見えなかった。


「まぁ、まずはこのキャラクターについて聞かせてもらおーか。……はい、ドン!」


 少年MCはそう切り出して、足元から一枚のフリップを取り出してテーブルに乗せる。

 そこには作中のいくつかのシーンを抜粋したものが記載されていた。


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