第246話 バランスの悪さ


 うぅ、敵が湧き水を飲んで回復するとか、想定外にも程があるよ!? あ、でも今まで状態異常の回復をされた事もあるような……? わー!? よく考えたら、普通にこの可能性はありえたんだー!


「全快されたところで、今度は湧き水を飲ませずに弱らせればいいだけです!」


 やっちゃったものはどうしようもないから、ここから立て直せばいいだけ! 放電が沢を流れるから、その水の中から出る! もう雷纏いの効果は切れてるんだし、そこに固執しても良い事はなーい!


「なんですか、この紫色の粉? って、毒な気がします!?」


 なんだか蝶の方から飛んできてるし、これは毒攻撃っぽい! 触れたらヤバい気がするから、全力で退避ー! 後ろに跳び退くのです!


ミツルギ : それは毒で合ってるから、退避して正解だぞ。

富岳 : 器用と知恵が高い、才智の蝶か。

いなり寿司 : 遠距離攻撃に毒を混ぜてくるやつだな。鱗粉攻撃か。

名無しのカカシ : 鱗粉って遠距離での範囲攻撃だっけ。触れてる間、毒とも出血とも違う独自の継続ダメージがあるやつ。

チャガ : 今のはそれだな。あれは毒の効果も追加出来るから、地味に厄介だ。


「なんですか、その厄介な攻撃!?」


 なるほど、さっきの粉って蝶の鱗粉なんだね。独自の継続ダメージがある上に、更に毒を上乗せなんて、とんでもなく凶悪だー! あれは確実に避けないと……。


「わわっ!? タヌキとイノシシも動き出しましたよ!?」


 堅固なタヌキが突っ込んできてるし、強烈なイノシシも突っ込んできてる!? うぅ、さっきまで優勢だったのに、一気に形勢が悪くなってるんだけどー! どっちも結構弱らせたはずなのに、全快って酷いよー!?


「こんな狭いとこで体当たり攻撃を2体同時とか止めてくれませんかねー!?」


 回避できるスペースが限られるんだから……って、こういう状態になるなら湧き水に拘らなくてもいいや! 3対1だけど、戦い方次第でどうにかなるはず! 少なくとも回避するのは、獅子咆哮で吹っ飛ばした木々の方でもいいはずなのさー!


「ここならこれでいけるはずですね! 『疾走』!」


 薙ぎ倒した木々の上にジャンプして体当たりを回避してから、疾走を使って駆けていく! ふっふっふ、囲まれて危なくなったのなら、一時的に戦略的撤退ですよ!


咲夜 : 逃げ出したー!?

イガイガ : まぁ状況が悪くなってたし、その判断は間違ってないと思うけどな。それより、足場は決して良いとは言えないのに疾走が安定してないか?

金金金 : あー、確かに。

サツキ : サクラちゃん、何かしたー?


「何かしたって言われると、爪をひっかけるイメージをしてみたら意外と安定しました! 意外と応用が利くんですね、これ!」


 ちょっと爪が刺さり過ぎて抜けるのが遅れてバランスを崩しそうになる時もあるけど、こんな倒れた木々の上なんて安定が悪い場所でも疾走出来てるんだから、悪い事じゃない!

 えーと、走ってる最中だから見えないんだけど、蝶とイノシシとタヌキはどうなったんだろ? あれ、この状態でどうやって後ろを確かめたらいいの!? 方向転換が出来るだけのスペースはない……って、もう薙ぎ倒してる木の範囲が終わったー!?


「わわっ、行き止まり!? こうなったら、こうです!」


 目の前の木に爪を立てて、急加速もして幹を駆け上るのさー! あ、思い付きでやってみたけど意外と出来た! 木が爪で思いっきり抉れてたけど……。


「って、結局行き止まりには違いないですよねー!?」


 木に突っ込むか、変な事をして空中へと駆け出すかだけの差だったよ! むしろ、急加速で普通の木を体当たりして薙ぎ倒した方がマシだったんじゃない? 今の空中で空ぶってる脚の動きを考えたらね!?


「ぎゃー!? 落ちます、落ちますよ!? ぐふっ!」


 うぅ、変に駆け上がって変な体勢になってたから、着地に失敗した……。うがー! 朦朧が入って、疾走が切れちゃった。って、この状態で朦朧って危険だよね!?


「て、敵は!? あ、結構遠いですね?」


 良かった、蝶もイノシシもタヌキも追いかけてはきてるみたいだけど、かなり距離は取れてたっぽい。あ、看破の効果が切れちゃった。まぁ朦朧が回復するまでなら、なんとか大丈夫だよね!


神奈月 : なんか無茶苦茶な事をしてたな。

ミツルギ : オフライン版は空は駆けれないからなー。

G : 走るのが安定しても、こういう状態になるのはサクラちゃんらしい。

咲夜 : それは確かに。

イガイガ : なんというか、転んでこそサクラちゃんって感じだしな。

真実とは何か : それが偽りのない真実である!


「その評価は嬉しくないんですけどー!? 早く朦朧は回復してください!」


 動けない間に、どんどんと近付いてくる敵が見えてるもん! 才智の蝶のあの毒の鱗粉の攻撃とか、受けたら絶対にヤバいよね!?


「ぎゃー!? 今度は黄色い鱗粉を飛ばしてきましたよ、あの才智の蝶!?」


 黄色いって事は多分、麻痺毒のやつー! 早く、早く! 朦朧は早く回復して! 今すぐ対処しないと、また動けなくなっちゃう!


「回復が間に合いました! あ、どこに避ければ!?」


 うがー! そもそもここは行き止まりだったー! 前方から迫ってきてる黄色い毒の鱗粉を避けたいのに、避ける先がない!?


ミナト : サクラちゃん、スキルの性質を忘れないようにね! 動きを封じるだけが使い道じゃないよ!


「……え? あっ、そういう事ですか! 『咆哮』!」


 よし、何とか毒の鱗粉はキャンセルさせられた! 危ない、危ない! 咆哮でスキルのキャンセルが出来るのがすっぽ抜けてた!


「ミナトさん、アドバイスありがとうございます! ……でも、ここからどうしましょうかねー」


 湧き水からは離れられたからもう回復される事はないと思うけど、追い詰められた状態には変わりないもん。私が回復する為の湧き水のつもりだったけど、逆に回復に使われて不利にしかなってない!

 何とか才智の蝶を仕留められたらいいんだけど……って、あれ? なんでイノシシとタヌキは倒れてるの? 何がどうなってるんだろ?


「……あ、麻痺毒ってなってますね。さっきの鱗粉、イノシシとタヌキにも効いてたんですね!」


 そっか、別にあのイノシシとタヌキは味方って訳じゃないし、私がキャンセルする前に巻き添えで動けなくなってるんだ! ふっふっふ、これはありがたいよ!


咲夜 : あー、そういう事もある?

サツキ : サクラちゃん、今がチャンスだよー!


「そうみたいですね! 今なら敵は才智の蝶だけです! 『放電』『放電』『放電』!」


 今をチャンスを生かさない理由はなーい! 放電で才智の蝶を攻撃しながら、足場に気を付けつつ距離を詰めていくのです! なんか才智の相手には苦戦ばっかりさせられてる気がするけど、それでも倒せない訳じゃない!


「わっ! 今度は紫色の鱗粉ですか! だったらこれで! 『爪撃』からの『振り回し』!」


 近くの木を爪で切り倒して、それを前脚で強引に吹っ飛ばす! ふっふっふ、これで鱗粉なんて吹っ飛ばせば良いだけなのさー! うん、毒の鱗粉は上手く散らばってくれた!


咲夜 : おぉ!? 今のはナイス!

ミツルギ : サクラちゃんは、上手いのか下手なのか、相変わらずよく分からん。

富岳 : その辺は妙なアンバランスさだよな。

名無しのカカシ : 確かにそういう感じはする。

G : 今もまさにそんな感じだしな。

こんにゃく : だよなぁ。


「『放電』『放電』『放電』! その辺、自分じゃよく分からないんですよねー? 『強牙』からの『体当たり』!」


 放電しながら一気に距離を詰めて、噛みついてダメージを与えてからすぐに離して、近くの無事な木の幹に体当たりで蝶を叩きつける! うん、あんまり耐久性はないみたいだからもう少しで倒せるね! 一気に距離を詰めて……。


「これでトドメです! 『連爪』!」


<未成体を撃破しました>

<進化ポイントを1獲得しました>


<サクラ【巧みなライオン【雷】】が未成体:Lv14に上がりました>

<基礎ステータスが上昇します>

<進化ポイントを3獲得しました>


 よーし、上手く爪の連撃も当てられたね! ちょっと小さめの蝶だったけど、なんとかなったー! Lvも14に上がったよ!


「ふぅ、何とか撃破です! さぁ、次は……ぐふっ!」


 ちょっと待って!? なんか急に凄い衝撃があって、吹っ飛ばされたんだけど!? あー!? 今のって、タヌキの仕業!?


「って、ぎゃー!? イノシシが脚を振り上げて待ってるんですけど!?」


 待って、待って、待って! タヌキが私を吹っ飛ばして、その先でイノシシが待ち構えてるってどういう連携なの!? 麻痺毒で動けなかったはずじゃ……って、麻痺毒の回復は早いんだったー!?


「がはっ!」


<サクラ【巧みなライオン【雷】】が死亡しました>

<死亡した為、ランダムリスポーンとなります>


「……死にました」


 うがー! 1撃ずつしか受けてないのに、凄いダメージだったんだけど!? うぅ、もしかして今の、どっちも溜め攻撃だった? イノシシの方は強烈だったし、威力がとんでもなかったんだけど!


ミナト : まぁそうなるよねー。

富岳 : 麻痺毒から回復したイノシシとタヌキの溜め攻撃を、両方ともスルーしてたんだからな。

G : やっぱりその辺がアンバランスなんだよなぁ。蝶に対しては初心者の対応じゃないのに、他を放っておくのは初心者っぽいミス。

チャガ : 薙ぎ倒した木の上で戦うってのも初心者っぽくはないんだがな……。

咲夜 : 集中力が分散し過ぎてるっぽい?

ミツルギ : 足場の悪さの方に意識が行って、その分注意散漫になってたってとこか。もう少し他にも注意力を振り分けれたら、かなり違う気はするんだが……。

サツキ : まぁサクラちゃん、ナイスファイトだったよ!


「皆さん、溜め攻撃に気付いてたんですか!? うぅ、もうちょっと周囲を気にしないとですね……」


 油断してたつもりはないけど、皆さんが把握してたなら私にも見えてたって事だもんね。どうも目の前の敵に集中し過ぎてるみたいだし、私の今の課題はその辺なのかも……。

 うがー! 才智に警戒しながら、足場の悪い場所で移動に気を付けつつ、他の敵の動向もちゃんと把握するのは難しいよー! でも、頑張ってなんとかしようっと!

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