第113話 2匹の虫


「カブトムシもこうです! えいや!」


 地面に埋まっているクワガタと同じように、怯んでいるカブトムシを咥えて、地面に突き刺す!


「あれ? 思ったより硬いですね! えいや! えいや!」


 うーん、ちょっと角が刺さったけど、それ以上刺さっていかない! うぅ、スキルを使わないと駄目なのー!?


「むぅ、思った通りにいきませんね……」


ミツルギ : まぁそう簡単に成功しても、流石に困る?

イガイガ : サクラちゃん、クワガタが出てきそうだぞ。

咲夜 : あ、マジだ。


「えぇ!? もう出てくるんですか!?」


 ほんとにモゾモゾと動いて、地面の中から出てこようとしてる! 折角、地面に突き刺したのに……あ、そうだ! これならどうだろ?


「カブトムシの角をクワガタに叩きつけるのはどうですかねー?」


 咥えてるカブトムシが怯んでて、まだクワガタが地面から抜け出せていない今がチャンス! あ、スキルがいくつか再使用時間が経過したよ!


「これでいきます! 『振り回し』!」


 左上から右下へ動かす感じに頭を振り回すようにして、まだ半分くらい埋まっているクワガタに向けて、咥えたカブトムシを叩きつける!


いなり寿司 : あー、敵を武器代わりに……。

富岳 : まぁ複数の敵を相手にするには、有効な手段ではあるか。

神奈月 : 今日も見に来たら、凄い光景になっていた。

金金金 : サクラちゃん、いっけー!


「あ、神奈月さん、こんばんは! おぉ、大成功です!」


 ふっふっふ、カブトムシを叩きつけた事で、クワガタがまた埋まったよ! 作戦、大成功! やっぱり、地面に刺すにはスキルは必要なんだね!


 でも、これってクワガタって窒息にはならないのかな? うーん、その辺はよく分からないけど、まぁもう残りHPは2割くらいだしね。

 もうしばらくクワガタには埋まっててもらって、その間にカブトムシを仕留めちゃおう! こっちもHPは残り4割くらいまでは減って――


「わっ! カブトムシが暴れ出しました!」


 むぅ、仕留めようと思ったら暴れ出したよ! でも、こっちももう再使用時間は過ぎている!


「暴れようとしても、そうはさせません! 『噛みつき』!」


 ふっふっふ! カブトムシめ、逃がしはしない! 地味にその立派な角って役立ちそうだよね!


イガイガ : カブトムシは逃げようとしても逃げられずか。

G : カブトムシー! クワガタもどうしてそんな事に!?

いなり寿司 : あー、どうしてだろう?

咲夜 : 倒すべき敵なのは間違いないんだけど、なんだか哀れになってくるのはなんでだろ?

富岳 : ……普通の倒し方とは言えないからだろうな。

ミツルギ : 倒せられたら、手段はどうでもいいんだよ!

ミナト : まぁ身動きを封じる手段としてはありだよね。

サツキ : サクラちゃん、ナイス!


「倒せれば問題はないのです! というか、そんなに変な倒し方してます?」


 なんだか皆さんの反応が変だけど、明確に敵の武器を封じるのは間違った手段ではないと思うんだけどねー? カブトムシの角やクワガタのハサミって、明確に攻撃の手段だし、それを使わせないのがいいはず!


「あ、クワガタを放置する意味もないですね! このままカブトムシに噛みつきながら、打ち付けましょう!」


 そうと決まれば、噛みついたままのカブトムシをクワガタへと叩きつける! うん、スキルを使った時ほどの威力はないけど、それでもどんどん削れてるね!


<成長体を撃破しました>

<進化ポイントを1獲得しました>


 おぉ、クワガタのHPが全て無くなったー! ふふーん、今回は私の華麗な作戦勝ちなのです!

 そして進化ポイントもゲット! ふっふっふ、使いたいのを出来るだけ我慢してるけど、こうやって地道に溜めていけば、使う余裕も出てくるのさー!


「とりあえず、クワガタは撃破です! さーて、次はカブトムシの番ですよ! って、あれ? もうほぼ瀕死ですね?」


 思っていた以上にカブトムシも弱ってた!? うーん、噛みついたままクワガタに叩きつけてたからかな? まぁ弱ってるのは好都合だから、別にいいや!


G : クワガター! 虫だって、虫だって、一生懸命生きてるんだぞ!

イガイガ : リアルのはな! ゲームの中じゃ生きてねぇよ!

G : え、何を当たり前な事を言ってんの? リアルとゲームの区別はちゃんとつけろよ?

イガイガ : 自分から言い出しておいて、その言い草!

咲夜 : 何を漫才やってんの?

ミツルギ : 放っておいてやれ……。

いなり寿司 : あぁ、そういえばGはこういうやつだった。

G : そうだぞー!

イガイガ : こいつ!?

ミナト : はいはい、喧嘩しない! Gさんも変に煽らないの!


「皆さん、コメント欄で何をやってるんですかねー? 流石に他の人を弄り過ぎるなら、強硬手段を使うしかなくなるんですけど、極力勘弁してくださいねー?」


 出来る限りブロックとかはしたくないけど、私の配信なんだから変に荒れそうならやるしかなくなる……。そうなる前に釘は刺しておかないと!


G : あー、すまん。悪ふざけが過ぎた……。

イガイガ : まったくだ!

G : 悪かったな、イガイガさん。

ミナト : はい、これにてこの件は終了!

イガイガ : ……ほいよー。

富岳 : それはそうとして……サクラちゃん、カブトムシは?


「……え? あー!? いつの間にか逃げられてます!?」


 うがー!? コメント欄の方に意識を取られて、カブトムシへの注意が完全に逸れてたー!? わー、完全にやからしたー!?


サツキ : これは間違いなくGさんのせいだね!

神奈月 : 間違いないな。

咲夜 : とりあえずカブトムシを探せー! まだ近くにいるはず!

G : ……なんか、冗談抜きですまん。

ミツルギ : ミナトさん、逃げた場所は分かるか!?

ミナト : ごめん! 私も意識が逸れてて、確認してなかった!

富岳 : サクラちゃん、今の視界の中には多分いない! 草の陰とか、木陰とか、その辺を探せ!


「はい、分かりました!」


 うぅ、まさかもう少しで倒せるという状況でこんな事になるとは思わなかったよー!? 今回に限っては、冗談抜きで私のせいじゃなーい! 悪いのはGさんだー! もう流したから、掘り返すのは無しで言わないけど!


「カブトムシはどこに逃げましたかね!?」


 ともかく、探せー! あそこまで弱らせたのに、逃すわけにはいかないのです! はっ! こういう時こそマップで確認すればいいんだ!


「って、近くにいるのは分かるけど、正確な位置が分からないじゃないですか!」


 うぅ、近くに赤い印があるのは分かったけど、どっちの方向にいるかが分かるだけだった! でも、それでも少しはヒントになる!


「とりあえず、こっち側ですね!」


 マップを見た感じでは、赤い印があるのは私の真後ろで少し離れた場所! 見えていない範囲に逃げているのが分かったのは大収穫!

 とにかく方向転換して、少し進んでカブトムシを探せー! うーん、木がいくつかあって、ちょっとした繁みがある……。この辺のはずなんだけど、どこにいるんだろ?


ミナト : あ、見つけた! サクラちゃん、そこの木の幹!

咲夜 : 見つけるの、早!?


 えっと、木の幹、木の幹! あ、あれだー! よし、木の幹に止まってるカブトムシを発見! ふっふっふ、隠れずにそんなとこにいたのかー!


「見つけました! それではくたばってもらいます!!」


ミナト : あ、ごめん!? サクラちゃん、ちょっと待ったー! それ、そのまま突っ込んだらダメ!

富岳 : ちっ、この木も敵か!


「えぇ!? そうなんですか!?」


 とりあえず体当たりしようかと思ったけど、ストーップ! うーん、この木が敵なんだ? あ、カブトムシがいる場所から樹液が出てる? 逃げたというよりは、この樹液に引き寄せられたのかな?


「……え?」


 ぎゃー!? 私の獲物のカブトムシが、木の根で突き刺されて死んだ!? 経験値は入ってきたけど、進化ポイントが入ってこなかったー!?


咲夜 : あ、横取りされた。

G : ……本当に、申し訳ない!

イガイガ : いや、マジで何やらかしてくれてんの?

サツキ : サクラちゃん、ドンマイ!


「何を横取りしてくれてるんですか、この木は!」


 折角私が倒す直前まで弱らせたカブトムシを樹液で誘き寄せて横取りとか喧嘩売ってるんですか!? 喧嘩売ってるんですね! 良いですよ、その喧嘩は買いましょう!


金金金 : あ、狐っ娘アバターが思いっきりキレてる。

ミツルギ : まぁ今のは気持ちは分かる。

ミナト : 今回のは完全にサクラちゃんの落ち度じゃないしね。

真実とは何か : それが真実である。

咲夜 : 誰かさんが余計な事を言うから……。

G : 本当に……申し訳ない……。


「この際、原因は関係ないです! ともかく私の獲物を横取りした、この木は絶対にぶっ殺します!」


 きっかけはGさんの発言だったかもしれないけど、私も意識を散らしてしまったとこは失敗だし、そこは仕方ないで割り切る!

 でも、そこで美味しい部分を掻っ攫っていったこの木は絶対に許さない! 使いたいのを我慢してる私から横取りした進化ポイント、この木には代わりになってもらうのです! 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る