第31話 のどかな護衛と新たな仲間
アキンドー商会としても、馴染みの冒険者が来たことで安心できたようである。
「お二人が噂の! ジョノーキン村はですね、新しい移住者を募って、アキンドー商会が出資して再出発することになりまして!」
「ほうほう、そりゃあ凄いな」
結局、あの村で恨みをつのらせていた人々は、歴史の裏側に消えていくのだろう。
命を賭して憎悪を実現させるために、エルダーマンティコアまで呼び寄せたが……。
死んでしまっては、全て終わった後に語り継ぐものもいない。
せめて、助かった子どもたちが悪い思想に被れていないことを祈るばかりだ。
「ということで、ジョノーキン村を通ってから、周辺の村々を一周します。食材や資材を買い取って積み込み、王都に戻ってくるんですよ」
「それはいい。ガットルテ王国をざっと見て回りたかったところだ」
「ああ。私も王都の外はあまりよく知らない。助かる」
今回の旅は、なんと荷馬車に乗れる。
素晴らしい……!
騎士団の依頼以外は、徒歩だったからな。
荷馬車の数は四台。
これを二人だけで守ることは難しいので、今回は他の冒険者も来ている。
イングリドがいる依頼に他の冒険者が来る辺り、死神の汚名は返上されつつあるな。
だが、今回参加している冒険者の中で、一人だけは見たことがない。
藍色の髪の、小柄な女だ。
がっちりしているから、おそらくはドワーフだろう。
彼らの髪や髭の色は、鉱物の色を持っている。
ドワーフ族はもともと、地中より生まれたと言われている。
その証拠として、ドワーフの骨や体毛からは金属が採れるのだ。
そしてこれは、彼らが極めて強靭な肉体を持っている証拠でもある。
だが……このドワーフの女性、斧や槌といった武器を持っていない。
背中に背負っているのは、杖?
ということは、魔術師か。
「おう、なんでえ」
彼女が俺の視線に気付いたようだ。
「あたいの顔に、なんかついてるのかい? じろじろ見やがって」
「これは失礼! 俺の名はオーギュスト。道化師をやっていてね。初対面の方には、顔を売るようにしているんだ。そして、顔を覚えるようにもしている」
「おうおう、うさんくせえ。お前、人間のにおいがしないねえ。魔族か。魔族が人間の中に入り込んで冒険者やってんのかい。それで道化師って、一体どういう了見だい? 何か企んでるんじゃないのかい?」
「失敬な!」
頭から湯気を立てそうなほど怒って、イングリドが加わってきた。
「君は初対面の相手に失礼だぞ! 名前くらい名乗ったらどうだ! 私はイングリドだ!」
「よっ、死神イングリド!」
横合いから別の冒険者が茶化したので、イングリドがむきーっ!とさらにヒートアップした。
「違う! 死神じゃない!!」
「へえ……。あんた、腕の立つ戦士だねえ。そこの胡散臭い道化師も、とんでもねえ手練だ。なるほどねえ……。こんなのが参加してるんじゃ、この依頼もただの護衛じゃなさそうだ」
ニヤリと笑うドワーフ女史。
「おっと、名乗るんだったね。あたいの名は、ギスカ。ドワーフさ。そして、魔術使いでもある。お山を出てから、ふらふらとあちこち旅をしてるんだけどね。路銀がちょいと心もとなくなって来て、そこにこの依頼が募集をかけてたのさ」
「なるほど。金がないのは辛い。心まで貧しくなってしまうからな。俺も、生活費を得るために冒険者になった……」
「あんたもかい!」
「君もか!」
一気にシンパシーが生まれた。
俺とギスカで、握手を交わし合う。
ドワーフにしては、柔らかな手だ。
近接戦闘を行わないスタイルなのだろう。
「むうー」
イングリドが不満げに唸っている。
「何が不満なんだ」
「初対面の相手に失礼だからだ! 彼女がごめんなさいをオーギュストにするまで、私は許さないぞ!!」
腕組みをしたイングリドが、どーんと言い放つ。
ギスカは目を丸くしてこれを見て、プッと吹き出した。
「あは、あははははは! 面白いねえあんた……! 今どき、そんな真っ直ぐでよく冒険者なんかやってこれたねえ。いや、あんたの腕ならやっていけるか。相方が抜け目ないし、問題ないさね。分かったよ! 道化師オーギュスト! さっきは悪かったね! 旅先で声を掛けてくる男なんざ、みんなろくでもない奴ばかりでね。警戒心ってやつがどうしても育っちまうのさ」
「よろしい!」
イングリドが許した。どうやら礼儀がきちんと成されれば、気にならないらしい。
「だが、君も魔術師ながら一人旅とは大したものだ。よく身を守ることができたね」
「そりゃあ、コツがあるのさ。それ、そのコツを見せる機会が来たよ!」
「ああ、どうやらそのようだ」
荷馬車の周囲に、気配が現れる。
茂みが鳴り、幾つもの影が飛び出してきた。
「ウギギギギ!」
「ギギギギギ!」
甲高い声で叫ぶ、緑色の肌の小人たち。
ゴブリンである。
外見は人に似ているが、あれらは下位の魔族である。
この世界由来の存在ではない。
かつて過去に起きた大きな戦いで、魔族と呼ばれる存在がこちらに呼び出された。
その下級兵士に当たるのがゴブリンだ。
彼らはこの世界に住み着き、定着している。
そして、他の知的種族を襲い、略奪をすることせ生活しているのだ。
「お仲間じゃないのかい?」
「まさか! 俺はこう見えて上位魔族なんでね」
「そういえばオーギュスト、君がどういう魔族なのか私は知らないな」
口を開きながらも、俺たち三人はすぐさま戦闘態勢に入る。
「混血が進み、ほとんどの権能を失ってしまったが、俺の種族はバルログ。知恵と力に優れる魔族だよ」
「バルログ!? 始祖王を苦しめた最強の魔族じゃないか! いや、見た目は普通なんだな……」
「俺の中の魔族の血は、一割くらいしか流れていないからね! さあて、ゴブリンも襲いかかってくるところだ! 諸君の実力を存分に発揮し、雇い主にアピールするとしよう!」
まずは肩慣らし程度の戦闘、行ってみようか。
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