第11話 魔石で調査
フェルミ村から南下していくとだだっ広い平原が広がっていた。その先には森が生い茂っているのだが、それ以外は何もないし人の姿も見えない。
地平線の向こうまで平原が広がっている。ただそれだけ。
澄み渡る青い空と緑のカーペットが美しい。
風が吹くと草がサーッと潮騒のような音を立てて、柔らかく頬を撫でる。
「ここまで平原が続いている景色は初めて見たなぁ……」
日本であれば田舎の方であったり、牧場だったり、北海道だったり。こういう景色があるとは思うが、それらは動画やテレビでしか見たことがない。
実際にこうして見ると、自然の雄大さや解放感を強く感じる。
こうして平原の中を一人で歩いていると、この世界で自分ひとりしかいないんじゃないかって思えるほどだな。
「これだけ人がいないと魔法の練習ができるな」
調査があるとはいえ、森に入れば危険な魔物と遭遇する可能性がある。自衛の手段として神様から授かった力を使いこなせるようにしておくべきだ。
ここならどれだけ派手に魔法にぶっ放しても、人に被害が出ることはない。
火魔法はちょっと加減を間違えれば、辺りを焼け野原に変えてしまいそうだけど、そこは水魔法で鎮火するので良しとしよう。
それに魔法の加減のコツだって、神様に習ったんだ。そこまで酷いことになるはずがない。
まずは火魔法のファイヤだ。
小さな炎を作り出して種火とする便利なもの。それを球体にし、大きくして射出することができればファイヤーボールとして応用できるそうだ。
よし、まずはこれをやってみよう。
魔法の書には気難しい言葉で炎についてのイメージが書かれているが、俺からすればまったくイメージしづらいので自分のなりのイメージにする。
小さな炎を近付けて薪に火をつけるような。そんな柔らかい炎をイメージだ。
そして、最後に重要なのが魔力制御。
俺の身体には神様から与えられた魔力の残りがある。残りとはいえ、それは世界を管理する神様の魔力なので膨大だ。
それが魔法を暴走させないように少しだけ送ってあげなければならない。
胸の奥にあるエネルギーをほんの少しだけ送り出す。蛇口をひねって、必要な分だけを管を通して送るイメージ。それで魔法を発動だ!
「ファイヤ!」
すると、目の前でフランベでも起こったかのような大きな炎が巻き起こった。
それはドンドンと大きくなって、目の前にある平原を焼き払っていく。
「やりすぎやりすぎ! えっと、ウォーター!」
このままだと平原全てが焼き払われるんじゃないだろうかって勢いだったので、慌てて水魔法を発動。
目の前で生成された水は加速度的に質量を増して、小さな津波と化して炎を鎮火していった。
うん、これは炎を消すために魔力を強めにしたのだが、自分の中の感覚では一か二の違い程度。それだけでここまでの規模が出ちゃうのかぁ。
「初級魔法がまったく初級魔法じゃない……」
魔法で戦うオンラインゲームなんかも色々やったけど、これは明らかに初級魔法のレベルじゃない。明らかに上級とか、それ以上の魔法だ。
これじゃあ、迂闊に自衛としても使えないじゃないか。
とにかく、素材を採取しに森に向かう上で火魔法を使うのはダメだな。これじゃあ森を焼き尽くしてしまうのが目に見えている。
たくさんの素材の宝庫である森を焼き尽くすのは俺の望むことではない。
火魔法は特に練習を重ねる必要がある。
しかし、そうなると自衛の時に使う魔法は何がいいだろう? 火魔法は論外として、水魔法は敵を倒すには少し心もとない。
風魔法は突風や風の刃を飛ばす魔法があるみたいだけど、突風は微妙だし、風の刃は木々をなぎ倒すイメージしか湧かないな。
ページをめくっていると、応用編として氷魔法が出てきた。
「おっ、氷魔法とかいいかもしれないな」
氷魔法ならば相手を凍らせられるので確実に足を止めて、倒すことができる。それに規模がすごいことになっても凍結するだけなので、まだ安心感がある。
氷魔法は水魔法の応用で、水ほど身近にある存在ではないので発動させるのは難しいらしい。
だが、前世の暮らしで氷があるのは当然だったし、色々なゲームやアニメをたしなんできた俺からすればイメージするのも難しくはない。
水が凍り付いていくのをイメージしながら、先程よりも魔力を絞る。
「フリーズ!」
すると、俺の居場所から半径五メートルくらいが凍り付いた。
フリーズはちょっとものを冷やしたり、凍らせる程度の魔法なのだが、相変わらず魔力が強くて効果がすごい。
だけど、辺り一面を焼き払ったり、津波を引き起こすような魔法よりかはずっと使いやすい。これなら森で魔物と出くわした時に、使っても大丈夫な気がする。
とはいえ、今の魔法制御では周囲に放つことしかできていないので、威力の制御とコントロールを身に着ける必要があるな。
森まで歩きながら、ひたすらフリーズの練習をしておこう。
◆
フリーズをひたすら練習しながら歩いていくことしばらく。俺は南の森にたどり着いた。
ローランの経験談によると、満月花は日当たりのいい場所にあるとのこと。
まずは日当たりのいい場所を見つける必要がある。
早速、そこを探しにいきたいのであるが、その前に試してみたいことがあった。
それは魔石による魔物の調査である。素材となりえる魔石で調査をすると、魔物を感知できるのか。これが可能であれば、波動の範囲内にいる魔物すべてを感知できるということになる。そうだとすれば大変ありがたい。
俺はマジックバッグからポダンさんに貰った魔石を取り出す。
魔石で検索をかけて周辺を調査。さて、調査はそれに答えてくれるのか。
半ば祈るようにして俺は魔力の波動を飛ばす。
「魔石、調査!」
すると、森の中で紫の輪郭をした魔物の輪郭と魔石が浮かび上がった。
「おお、なにかが見える!」
ジーっと佇んでいる亀みたいな生き物、イタチのような枝葉を渡り歩いている生き物。もぞもぞと這いずっている巨大な芋虫。そして、ラキアの森でシルエットとして見た事のあるホーンラビット。
「ホーンラビットが見えたということは……今、見えているのは魔物だ!」
決まりだ! 魔石で調査をすると魔石を体内に持っている魔物を感知することができる!
それが今証明された。
素材で特定の魔物を感知できるだけでも十分に凄いんだけど、やっぱり魔物のすべてを感知したかったんだよなぁ。
これさえあれば、どこに行こうと魔物を感知することができる。
素材を採取する上で一番の危険となる魔物との遭遇を極力回避できるのだ。
もしやと思って使ってみて本当に良かった。これで昨日よりも採取に集中できるというわけだ。
このまま真っすぐ進むとホーンラビットと遭遇しそうなので、俺は少し迂回するように進んでいく。
そんな中、森をうろついている魔物と自分の魔石を見て気になったことがある。
ポダンさんから貰った魔石は調査で青色になっているが、森で見えている魔物たちは紫色だ。
魔石はその身に含む魔力の純度によって価値が変わると鑑定先生は教えてくれた。
とすると、今見えている魔物たちが持つ魔石の純度は高くないということなのだろうな。
紫で表示された魔石と、手元にある青色の魔石。
その違いをじっくりと観察してみたいところであるが、今日の目標は魔石ではなく満月花だ。気になるが、ひとまずは満月花を探すことを優先としよう。
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