104.武闘大会、開幕(すでにしています)

ピザとオレンジジュースを買ってタリアと一緒にコロシアムに入る。コロシアムは中に入った後階段があり、上に登ると観客席に出ることが出来る構造をしていた。


「オレンジなんて見つかっていたんだな。ネフトでは売っていなかったように思うが」


タリアにジュースの入った紙のカップを渡しながら尋ねる。


「ありがと。うーんプレイヤーの露店は回った?確かオレンジとかリンゴとかはNPCの畑じゃなくて、フィールドに生えてるって話だった気がするけど」


「それなら見てないな。大地人の市場と街中の店しか見てない」


「確かルクシアにも運ばれてきてるわよ。なんだかんだ行ってルクシアが流通の中心になってるしね。どうする?前の方と後ろの方どっちにする?」


「俺は目が良いから後ろの方で大丈夫だ。タリアは前の方に座ったらどうだ?」


やはり皆近くで見たいようで、前の方の席は埋まっている。なぜか入口付近はとくに席が埋まっているようだ。


「うーん、良いよ私も後ろの方に座る。まだ午前中は面白そうな組み合わせは無かったしね」


「そう言えば、トーナメント表は出てるのか?」


「出てるわよ。ギルドにも置いてあるし、組み合わせを書くためだけのスレも掲示板にあるよ。ほら」


タリアがそう言って自分のアルトの窓を可視化して見せてくれる。


「ここからが今日の組み合わせ。コロシアムは広いから、予選は8つに分けて行われることになってるの。今日までは予選で、60人が勝ち抜けることになってるわ」


「明日は決勝トーナメントか?」


「うーん、どうなんだろ。60人でトーナメントっておかしくない?戦う回数に差が出るし。それなら予選段階でうまくつじつま合わせると思うんだよね」


「ああ、たしかに60人だと数が合わないか。まあでも、それしか無いんじゃないか?まさか決勝バトルロワイヤルなんてことはないだろ?」


大人数で勝者を決めるといったら、全員同時に戦って一人の勝者を決めるバトルロワイヤルも方法としてはあると思うのだが、武闘大会の決勝で純粋な実力が出にくいそんなことをするのかという疑問がある。


「そうじゃないかって意見が多いよ。まあ実際は明日にならないとわからないけど。個人戦だからバトロワもしやすいしね」


「そういうものか」


「そ。後ろの方行こ。とりあえず午前中はAブロックで強い人が結構出るから、そこが見える場所に座ろう」


こういう大会をしていれば、誰が強いか、どのプレイヤーがどういう戦い方をするかといった噂話や評判などが広まるのだろう。掲示板で有名な攻略組なども出てくるとなればなおさらだ。


上の方はまだ席がかなり空いているので、タリアと並んで座る。ピザをかじりながら俺も掲示板のトーナメント表を探してみる。


そのスレを見つけた後、今日のAブロックの対戦を確認する。知っているプレイヤーはほとんどいないが、ウミかあいつらがいればいいなと思ったのだが。


いた。それも二人。Aブロック二試合目と五試合目。


一応一試合30分を目処にしているようで午前中に6試合。午後には12試合ある。とすると二試合目は9:30からで、五試合目は11:00からだ。


「うん、うまい」


ピザはチーズとトマトソースがいい感じにマッチしていて美味しい。できれば焼きたてを食べたかった。店には窯が無かったので、おそらく別の場所で作って運んできたのだろう。温度を保っていた方法は気になるが、窯を持ち運ぶというのは厳しかったのだろう。


移動式の窯、というのも作ろうと思えば出来る気はするのだが、どうなのだろうか。


「ほら、始まるよ」


タリアに言われてAブロックに目を凝らす。コロシアムの広い舞台を石か土の壁で隔てているようだが、それほど高い壁ではないので上からだと他のブロックもそこそこ見える。


Aブロックでは、二人の片手剣士が向かい合っていた。片方は剣のみ、もう一方は盾も持ったタイプだ。


審判が旗を振り下ろすのに合わせて戦いが始まる。


盾無しの剣士の方はどんどん前に出るタイプのようで、アーツを織り交ぜながらどんどん攻めていく。一方盾持ちの方は動きを見極めようとしているようで、冷静に盾受けしながら動いている。


以前ゴウトを狩ったときに思ったのだが、アーツの発動って光っていただろうか。ゲームが始まった最初の頃は光っていなかったと思うのだが。しかしβテストの頃は光っていた。何か仕様の変更があったのだろうか。


そんなことを考えているうちに、ずっと守りに入っていた盾剣士がカウンターで攻勢に出た。動きを読み切れるまで耐えていたようで、盾なしの剣士の回避先を読んで攻撃を加える。


盾無しの剣士も攻撃を当てていたが、的確に攻める盾持ち剣士のほうがダメージを与えていたようた。


盾無しの剣士の体にヒビが入り、薄い青緑色の膜が割れて剥がれ落ちる。同時に、審判が旗を振り上げた。大きな拍手と歓声が沸き起こる。


タリアいわく武闘大会のときにだけ使用される結界らしく、HP分のダメージを受けると結界が割れるらしい。この大会ではそれを勝敗の判断基準にしているそうだ。一試合ごとに死んでいてはたまらないということだろう。


試合を行った二人が握手を交わして退場した後、次の選手が入ってくる。その瞬間、Aブロックを見ていたプレイヤーが沸き立つ。


「あ、ほら出てきた。次の人、攻略組の有名な人だよ」


「どっちだ?」


一方は、和装に近い防具に刀を一本左腰に挿した白髪の剣士。


というか、俺の仲間のレンだ。以前見たときよりも装備が更新されており、白を貴重とした防具に変わっている。相変わらずほとんど布で肩や肘にだけ革を使っているという軽装だ。おそらく刀も新調しているのだろう。


もう一方は青いマントに、長い杖を持った女性の魔法使い。動きやすさを重視しているのか、マントの中は体にフィットしたシャツとショートパンツにハイソックスを穿いている。髪色も含めて全体的に紺や青、水色など青系統で装備をまとめている。水属性使いだろう。


個人的には、レンが勝つと思っている。魔法使い、でレンに対応するのは厳しいのではないだろうか。


「あの女の人の方。水属性の魔法使いでシーラっていう人なの。『月の雫』っていう有名なクランの副リーダーなの」


「ふーん。それじゃあ、どっちが勝つかかけるか?」


「何、ムウくん男の人の方知り合い?」


「さあな」


俺がそう答えると、タリアは一瞬悩みこむ様子を見せる。しかし、すぐに賭けにのることを承諾した。


「じゃあ負けたほうが夜ご飯奢るってことで。私は剣士の人が勝つ方に賭けようかな」


「おい」


「だってムウくん自身満々でしょ?だったらなんか理由があるんだろうな、って」


「…わかった。じゃあ俺は魔法使いが勝つように祈っておこう」


逆を取られてしまった。タリアがシーラという魔法使いの勝ちを確信していると思ってふざけて言ってみたのだが、逆を取られてしまった。さらに、俺が賭けを持ちかけたことでレンに興味が湧いたらしく彼について尋ねてくる。


「ねえ、あの剣士の人は知り合いなんでしょ?どんな戦い方するの?」


「それは見てればわかる。それより、『月の雫』というのはどう有名なんだ?」


「リーダーと副リーダー含めたクランのトップパーティーがとっても強いし、他にも生産職戦闘職両方に一流が揃ってるのよ。まあ私も鍛冶なら負けないけど。それに人数も結構いるし。特にあのシーラさんと、クランリーダーの人は二つ名があるぐらいすごいのよ」


「二つ名、か。プレイヤーによるものだろ?」


「そうよ。掲示板で有名な人の二つ名は結構話し合われてて、それがしっくり来たら定着するの。シーラさんは確か、『水統の魔女』だったかな」


「なるほど。始まるぞ」


タリアから説明を聞いていたが、二人が礼をして左右に離れたので話を止める。フィールドを半分に分けた自陣側ならどこにいても良いようで、シーラは自陣の後方に、レンは真ん中付近で立ち止まる。


「あんなところで良いの?魔法使い相手なら距離詰めないと厳しいと思うんだけど」


「まあ、見ていればわかるだろ」


俺も正直意図が読み取れない。余裕の現れか?流石に攻略組トップクラスが相手だと手を抜けないと思うのだが。


そして審判が旗を振り下ろし、試合が始まった。

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