70.コリナ丘陵-8
「よし、行くか」
ダンジョン前に設置していたテントを撤去し、窪地から外に出る。今日は一度拠点まで戻ってアイテムを置いた後、拠点の近場でアーカンかヒストル、中型モンスターのいずれかに戦闘を仕掛けて戦ってみる予定だ。
安全第一でやるつもりではあるが、ぎりぎりの戦いをしなければ成長も小さい。多少の危険には全力で突っ込んでいこう。
「次来るときは、何層までいけるか、だな」
オークとゴブリンの間には相当の差があり、俺が一人で複数のオークを相手にするなら今と比べて相当強くなる必要がある。本来ならダンジョンというのは、正面から挑むならパーティーレベルの戦力が必要なものかもしれない。何をするにも、強くなる必要がある。
「しばらくレベル上げしたら、また先のエリアに足を伸ばしてみるのもいいな」
な?、と俺の首に巻き付いているアキに話しかけると、キュ?、と首をかしげる動作をする。言葉がはっきりと分かるわけもないのはわかっているが、そこにいるとついつい声をかけてしまう。
軽く頭を振ってスッキリさせると、前を行くナツとフユに置いていかれないように足を速める。アキはめんどくさがりなのか移動の最中も俺の頭に乗ってきたりするが、ナツとフユは元気なもので先に先に行って俺が追いつくのをよく待っている。
他人がいなくても自分だけでワクワクを追い求めていくつもりだったが、道連れがいるというのは良いものだ。
******
「ふぅ」
ヒストルの群れの最後の一匹が倒れたのを確認して、俺は浅く息を吐く。今の群れは10匹程度だったが、丘陵の少し開けた部分にいる奴らを森の中へと誘い込む、木を盾に分断したことでゴブリン6匹を相手にしたときより楽に倒すことができた。
「もう少しきついほうが良いんだがな」
6匹のゴブリンより楽だとわざわざダンジョンから戻ってきた意味が薄まるが、いざ戦いとなると自分の戦いやすいフィールドに持ち込んでしまい、結局純粋な戦闘ではなく搦め手を使って楽に倒そうとしてしまうのだ。数戦森の中におびき寄せて戦ったので、次はあえてきつい戦闘をするように心がけよう。10匹程度のヒストルならなんとかいけそうだ。
周辺には肉食のモンスターの気配はないので、少し北に向かう。この周辺のヒストルの群れは大体倒してしまったので、場所を変える必要があるのだ。といっても、このコリナ丘陵は《亜人の巣》と比べてもモンスターの密度が高く、500メートルも移動すれば十分に次の集団を見つけることができる。
移動の途中で、森の中に休憩しているアーカンの群れを見つけた。数は5匹ほど。先日雷を操る大型モンスターと戦っていたときの群れは10匹以上いたので、今目に見えているのは群れから一時的に離れているだけの集団かもしれない。どちらにしろ、他の凶暴なモンスターの気配が存在しない今が戦うにはチャンスだ。
“気配”スキルで気配を殺し、アーカンの群れが休憩している森の端に忍び寄る。奴らが休息しているのはそこから20メートルぐらいのところだ。
木の陰に体を隠し、弓を引き絞ったところで先程考えたことを思い出す。
あえて戦闘に縛りを設けてきつくしよう、そうつい先程思ったばかりだ。森の淵からこっそりしとめても厳しい戦闘にはならない。
正面から戦うために、矢を矢筒に収め、鉈を腰から引き抜いて近づく。気配を隠さずに近づくとまだ15メートルほど距離がある所で全てのアーカンが目を開け、様々な形でこちらに注意を向ける。
そのまま真っすぐ近づいていくと、枝の上に立ち上がりこちらに向かって威嚇するように鳴く。
それでも俺が立ち去らず、至近距離で立ったまま襲ってくるのを待っていると、やがてアーカンのうち一匹が飛びかかってきた。
相手の位置は俺の頭より上にあり、飛びかかってくるまでに少し時間がかかる。その間に矢を番えて真下から一矢を放ち、続けてアーカンの鉤爪に鉈を当てて方向をそらす。
アーカンの体はヒストルに比べて軽く、上から飛びかかってくるアーカンの進路を完全にずらすことができた。ヒストルの飛びかかりは防御することができずいちいち避ける必要があったのでそれと比べると戦いやすいだろう。
ヒストルとの違いは、翼を使ってすぐに樹上に戻っていくことだ。だが、弓を使っている俺には対した問題にはならない。
俺を取り囲んだアーカンが四方から飛びかかってきたり、羽を飛ばしてくるのをときに回避し、ときに避けながら弓で反撃していく。見の躱しが鋭く樹上に立ち止まっているアーカンは狙われているのを察知して逃げたり木の裏に隠れたりするので、移動先を狙ったり攻撃のタイミングにカウンターで当てたりしてダメージを稼いでいく。
5匹のうち3匹を倒したところで、アーカンの飛ばしてくる羽根を避けきれずに食らった。ダメージを確認すると、食らったダメージ自体は俺のHPの5%ぐらいだがそこから継続的にHPが減っている。毒だ。
今は解毒アイテムは持っていない。一度の毒でどれぐらいHPが減るのだろうか。危なくなったらポーションで回復するとして残り2匹早く倒してしまおう。
その後は狙う対象が2匹に減ったのでダメージを受けること無く倒し切ることができた。アーカンは樹上からのヒットアンドアウェイを主な攻撃を方法としているので攻撃自体はそれほど苛烈ではなかったが、その分こちらも攻撃を叩き込むタイミングがない。結局毒の回復のためにポーションを一本飲み干し、その後無事倒しきった。
毒は俺のHPをおよそ5割ほど削ったあたりで自然と回復した。アーカンから受ける毒があの程度なのかこの世界での毒は全てあれぐらいの影響があるのか。そのあたりも今後調べていく必要があるだろう。
次戦うときは、地面から樹上を見上げながら戦うのではなく、俺自身も木の上に上がって同じ場所で戦ってみよう。その方が足場の悪い場所での訓練にもなる。
ただ、レベルを上げることを考えるならアーカンはあまり効率がいいとは言えないだろう。強さはヒストルとほとんど変わらないのに、戦うのに時間ばかりがかかる。耐久力が高く攻撃回数が必要となるならその分のレベルアップも望めるだろうが、アーカンはそう言うわけではなくただ単に待ちの時間が多いのだ。
戦うメインはヒストルにするとして、アーカンとは特殊な状況下における戦闘の訓練として戦おう。
******
その後日が暮れてくるまで拠点の周囲で戦い続けた。相手にしたのは基本的にヒストルで、アーカンは見つけたら戦う程度に留めた。熊型の中型モンスターも一度見かけたが、相手の強さがわからないのでもう少しレベルが上ってから戦うことにした。ボスエリアのこちら側のエリアのモンスターは全体的に強く、ルクシア北などで強かった一般モンスターと比べても基本の性能が高いので、こちら側の熊はかなりの強さだと思っておいたほうが良い。
拠点に戻って焚き火と篝火をつけ、夕食の用意をする。
焚き火は風情があっていいが、俺以外の多くのプレイヤーがこちら側にやってきて拠点を構えるようになったら、常時点灯している光源が必要になるのではないだろうか。
ここの地下の泉のあたりで取ってきた光る鉱石は今は倉庫に設置して中が明るくなるようにしてみたのだが、次第に光を失っているのだ。永遠に利用できるわけではないらしい。
確かに、今俺のいる岩柱には木が直接生えていたりと魔力のようなものが巡っていることが見受けられる。あの鉱石もこの岩柱の一部だったことを考えると何らかの方法でエネルギーを補給できれば再び明るくなりそうだが、何分方法が見当がつかない。街の方ではそのための道具などが開発されているかもしれない。
探索をする際にはそのあたりも考えてみよう。
「明日からはどうするかな…」
食後にお湯を飲んで温まりながらポツリと呟く。
街に戻って入手してきたいアイテムはいくつもあるが、まだ戻るつもりはない。そうなると探索を続けることになるのだが、この周辺でレベル上げを継続するか、北に進んで拠点を建築するかという二択がある。
今後のことを考えるとやはり拠点をいくつか増やしておいたほうが良いだろう。俺自身の探索のためにもそうだし、他の奴らがこちらにやってきたときにも探索がスムーズになる。自分たちで作りたいという奴もいるだろうが、既存の拠点を使いたいというやつもいるだろう。そのちょっとした手助けになればいい。
「明日からは、また探索だな」
膝の上では三匹が丸々ようにして眠っている。いや、ナツとフユは目を閉じているだけで眠ってはいないようだが。
今日はかなり移動したので疲れたのかもしれない。俺も明日は長距離移動することになりそうだし、考え込むのはやめて早めに眠ろう。
三匹を抱えてテントに入り、寝袋に潜り込む。北に進んだらここより寒くなったりするのだろうか。このあたりでもすでに少し肌寒いくらいなのだが。
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Name:ムウ male
種族:ロストモア Lv30
《スキル》残りSP14
[装備中]長弓Lv9 梟の目Lv3 登りLv17 聴覚識別Lv15 魔力Lv28
踏ん張りLv19 ステップLv21 気配Lv17 早業Lv16 跳躍Lv20
[控え] 弓Lv30 木工Lv33 大工Lv1 細工Lv24 魔物素材加工Lv9 剣Lv16 絵画Lv5 料理Lv9 鷹の目Lv30 発見Lv34
アビリティ:木を見る目・初級
称号:魔獣の友
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